人工毛植毛
人工毛植毛とは、合成繊維でつくった毛を頭皮に植え込む増毛法で、素材は人体に馴染みやすいポリエステルやナイロンなどです。そして、表面には人体の頭髪にあるキューティクルと似た構造をつくることで、自然に近い艶を出し、黒、グレー、茶色などさまざまな色を組み合わせ、できる限り本人の頭髪と違和感のないように仕上げています。
日本では自毛植毛よりもずっと認知度が高く、植毛は人工毛を使うものだと思っている方も少なくありません。
人工毛植毛は、植毛する毛の長さも量も自在に作れますので、希望通りに髪の量を増やせ、植毛直後からボリュームアップを実感できます。しかし、人工毛植毛にはさまざまなデメリットがあります。
人間の体には、体内への侵入を図る細菌やウイルスなどの異物を排除するための免疫システムが備わっています。リンパ球などの免疫担当細胞は人工毛を病原体と同じ異物と認識し、体外に追い出そうと働きます。その結果、せっかく植毛した人工毛が少しずつ抜け落ち、一年後には6~8割も脱毛してしまうことになります。抜けた分を補うには、年に1、2回のペースで植毛を繰り返さなければならず、心身の負担も経済的な負担も相当なものになるでしょう。
また、自然の頭髪は日々少しずつ伸びるため、毛の根元の皮脂や垢、ほこりなどの汚れを自動的に押し出し、感染を予防することができます。ところが、人工毛は成長しませんから、汚れがどんどん蓄積し、細菌が侵入しやすい環境となります。その上、人工毛を植えた場所と皮膚の間にすき間ができるため、感染は毛根を伝わって頭皮の深部にまで広がります。そうなると、頭皮が炎症を起こして、化膿する原因となります。
さらに、人工毛植毛は抜けやすいので、抜けないようにするために、自然の頭髪の毛根よりもずっと深い頭皮の深部まで差し込んで固定する必要があります。ですから、切れ毛によって皮膚の中に埋もれた部分が残ってしまうと、簡単には抜くことができません。その結果、感染が皮膚の最深部にまで及んでしまうことになります。
このように頭皮の慢性的な炎症や感染、化膿が続くと、頭皮が線維化して硬くなり、血流が低下します。感染範囲の頭皮に残っていた既存の頭髪も抜けて永久脱毛になり、生えてこなくなります。その上、頭皮の表面にはキリで刺したような無数の傷痕が残ります。この傷痕のへこみに垢やほこりがたまりやすくなり、さらなる感染を引き起こすという悪循環を繰り返すことになります。感染や炎症を改善するには、感染の原因となった人工毛を抜去するしかありません。
植毛先進国であるアメリカでは、人工毛植毛は問題のある増毛法と判断され、現在では法律で禁止されています。日本ではまだ禁止されていませんが、薄毛の治療としては、お勧めできない方法です。