植毛の密度について【医師監修】
植毛の密度は、植毛の満足度において非常に重要な要素の一つです。植毛は、AGA(男性型脱毛症)や薄毛に悩む人々にとって、非常に効果的な解決策の一つで、植毛手術の満足度には、自然さや範囲など様々な要素が関わっていますが、その中でも特に重要な要素の一つが「密度」です。密度は植毛の見た目や自然さに大きく影響します。本コラムでは、植毛の密度について詳しく解説していきます。
- 1. 植毛密度の基本概念
- 1.1. 植毛密度とは
- 1.2. 理想的な密度
- 2. 植毛密度の重要性
- 2.1. 見た目の自然さ
- 2.2. 既存毛とのバランス
- 2.3. 術後の満足度
- 3. 密度に影響を与える要素
- 4. ドナー(移植毛)の質と量
- 5. 移植技術
- 5.1. スリットの開け方
- 5.1.1. ホールスリット(Hole Slit)
- 5.1.2. ラインスリット(Line Slit)
- 5.2. 患者の頭皮の状態
- 6. 植毛密度で失敗しない為に
- 6.1. 経験豊富なクリニック(医師・看護師含む)を選ぶ
- 6.2. 医師との相談をしっかり行う
- 6.3. 期待できる効果を確認・認識しておく
- 7. 植毛密度に満足いかない場合は
- 7.1. 再手術(密度アップ)
- 7.2. SMP(Scalp Micro Pigmentation)
- 7.3. AGA治療薬
- 7.4. その他
- 8. まとめ
植毛密度の基本概念
植毛密度とは
植毛密度は、移植される毛髪の量を一定の面積内でどの程度植えるかを示す指標です。具体的には、1平方センチメートルあたりにいくつの株を移植するかで表されます。日本人男性の髪の密度は部位によっての違いや個人差によって非常にばらつきはありますが、後頭部の真ん中の密度が良い部分で、凡そ1平方センチメートルあたり60株前後(本数に直すと150本前後程度)といわれています。この髪の毛の密度は個人差や人種差が大きいのと、部位によってもだいぶ変わってきます。例えば後頭部と比べると側頭部は密度が低いです。
なお、例えば同じ50株でも、太い髪の毛の方と細い髪の毛の方ではボリュームや見た目に差が出ますし、1株に何本の髪の毛が生えているかでも変わってきますので、あくまでも文献等の数値は参考値として目安とお考えください。
理想的な密度
理想的な髪の毛の密度は、AGAなどが起きる以前のご自身の髪の密度ですが、全くの無毛部に手術を行う場合は1回の手術で理想的な密度を達成するのは困難です。1回の手術で移植できる密度には上限があり、この上限の移植密度は元来の髪の密度と比べてやや低いからです。
全くの無毛部に移植を行う場合で、1回の手術で達成出来る上限の密度は40株/cm2です。元来の髪の密度が前述の通り60株/cm2であった場合は、40株/cm2で植毛しても密度はやや低くなります。それでも、後頭部にある太い髪の毛を移植するため、見た目上は後ろとあまり変わらないところまで1回で達成できることも多いです。
また既存毛のある部分に移植する場合は、既存毛の間々のスペースを見つけて移植するため、40株/cm2も移植できず、30~35株/cm2くらいが上限となります。このケースでは、移植毛が生え揃ってくれば既存毛+移植毛の状態となるので、既存毛の密度次第では非常に高い密度が1回の手術で実現できることもあります。
基本的には高い密度で移植した方が満足度の高い結果に繋がりやすいですが、年齢や、後頭部や側頭部の密度次第では高すぎる密度でかえってバランスが悪くなってしまうこともあります。そのため、経験豊富な専門医と相談をしながら、自身の髪密度に合った密度で、バランスを考慮して移植をするという事が理想的と考えています。
また、生涯で採取可能な株数、1回の手術で採取可能な株数にはそれぞれ限度がありますので、範囲を狭くするほど密度は高くなり、範囲を広くするほど密度は低くなるという点にはご注意ください。(つまり、薄毛の範囲が広い場合には、広い範囲に高い密度でということが難しいケースがあるという事です)
植毛密度の重要性
見た目の自然さ
植毛の密度が適切であれば、自然な髪の生え方に近い仕上がりになり、周囲の髪の毛とも調和しやすくなります。ここでいう「適切」とは、文献などにある平均値ではなく、植毛密度の基本概念でもご紹介したように、個人によって密度は異なりますので、ご自身にとっての「適切」な密度を指します。密度が低すぎると、薄毛の改善としては効果を感じにくくなりますし、逆に密度が高すぎると人工的で不自然な印象を与える可能性があります。
既存毛とのバランス
植毛は、他の部位の髪とのバランスが重要です。密度が高すぎると不自然に見えてしまったり、既存毛がある部分に移植する場合には過度な密度で移植することでかえって既存毛にダメージを与えるリスクが高まります。一方で密度が低すぎると、既存毛損傷のリスクは下がりますが、植毛の効果自体が薄れてしまいます。そして重要な事は、既存毛は移植毛に比べ、将来的にAGAの影響を受ける可能性があるという事です。つまり、移植毛はAGAに強い性質を持つため、永続的に移植先で生え続けることが期待できますが、既存毛はAGAにより徐々に薄毛になる可能性があります。そのため、植毛の際には、将来を考慮したデザインや配分でバランスが崩れないように十分注意を払う必要があります。
術後の満足度
密度が適切であれば、術後の満足度は高くなります。1度の手術で理想的な密度を実現するためには、医師との十分な相談が重要となります。なお、密度が高くても1本毛の株だけを40株入れた場合と、2本毛の株を40株入れた場合では、髪の毛の本数は倍の差が出ますし、細い毛と太い毛でも見た目には大きく差が出ます。
前述の通り、1回の手術で実現できる密度には上限がありますので、1回の手術で理想的な密度が実現できない場合には2回目の手術を検討することも必要となります。ご自身の体質や状況、ご希望によって大きく変わってきますので、医師と事前にどの程度の効果が期待できるのかを確認しておくようにしましょう。
密度に影響を与える要素
ドナー(移植毛)の質と量
植毛に使用される毛は、通常、後頭部や側頭部のAGAに強い性質を持つ髪の毛が生えているエリア(ドナーエリア)から採取されます。このドナーエリアの毛の質や量が、植毛密度に直接影響してきます。個人差はありますが、2本毛の株や3本毛の株の比率が高ければ同じ株数であっても生えてくる髪の毛の数が変わってくるため、ボリューム感が変わってきます。またドナーエリアに十分な株がない場合には採取できる株数が少なくなってしまい、満足できる密度で移植できる範囲は狭くなりますし、ドナーエリアの毛が細い方や白髪の方は、移植先の密度が十分でないと感じる可能性があります。
移植技術
医師や看護師の技術も密度に大きな影響を与えます。経験豊富で精密な技術を持つ医師や看護師であれば、より高密度に毛を植えることが期待できます。逆に、技術が未熟だと、毛の生着率が低くなる可能性があります。密度が高くなるほどスリット(移植する為の切り込み)の間は狭くなり、移植の難易度は上がりますし、適切な数にしないと、スリット同士が繋がってしまったり、血流の関係で定着率が悪くなってしまう可能性もあります。当院では、移植場所や既存毛の有無、ご希望や頭皮の状態等様々な条件によって変わってきますが、1平方センチメートルあたりにおよそ30~40株の移植を目指しています。
スリットの開け方
植毛のスリット(移植株を差し込むために移植部に作る切り込み)の開け方には、大きく「ホールスリット」と「ラインスリット」という二つの方法があります(呼称は様々ありますが、ここでは分かり易くするためにこの2つの呼び方をします)。それぞれの方法には独自の特徴と利点があり、患者のニーズや医師の技術によって使い分けられます。なお、さらに改良を加えられた方法を採用している場合もありますし、移植技術によっても大きく差が出ますので、あくまでも目安となる特徴であるとお考えいただけますと幸いです。
ホールスリット(Hole Slit)
ホールスリットは、針やパンチを使用して頭皮に小さな穴(ホール)を開ける方法で、傷口は円状となります。この方法は、FUE(Follicular Unit Extraction)法で比較的使用される傾向があるようです。ホールスリットは、個々の毛包単位を移植するためのスペースを確保するのに適しており、大きな株の移植や時間短縮に向いています。但し、ホールという特性上、ラインよりも高い密度での移植が難しいという事や、傷痕が目立ちやすくなる可能性があります。
ラインスリット(Line Slit)
ラインスリットは、細長いスリット(線状の切開)を頭皮に作る方法で、傷口は線状になります。通常は、メスや特殊なスリットメイカーを使用して行われます。この方法は、FUT(Follicular Unit Transplantation)法で比較的用いられることが多いようです(当院ではこちらの方法を採用しています)。ホールスリットに比べてより自然な傷痕や高密度が期待できますが、移植毛を切れ目に早く正確に入れ込む技術が必要になります。
患者の頭皮の状態
頭皮の状態も重要です。血流豊富な健康な頭皮であれば、移植された毛がしっかりと定着しやすくなります。しかし頭皮がダメージを受けている場合、密度を高めることが難しくなる場合があります。その場合は、1度の手術では満足のいく密度とならない可能性がありますので、医師と相談しながら治療計画を立てる事が重要となります。なお、健康な頭皮であったとしても、密度を高くし過ぎてしまうと、毛包に十分な血流と栄養が行き渡らない可能性があります。毛包が十分な血流を受け取れないと、生着率が低下し、移植毛が抜け落ちてしまうことに繋がる事があるので注意が必要です。
植毛密度で失敗しない為に
植毛後の密度で失敗と感じてしまわない為には、どの様な事に気を付けておけばよいのでしょうか。ポイントを3つに絞ってご紹介いたします。これ等をご考慮いただいた上で、極力複数のクリニックにて相談をされる事をお勧めいたします。
経験豊富なクリニック(医師・看護師含む)を選ぶ
植毛手術は、医師のみではなく看護師を含めたチーム医療であり、各々の経験値が結果を左右すると言っても過言ではありません。それは密度においても重要な要素となります。適切な密度を実現する為には、適切な数のスリット作成と、そこに移植株を植え込む工程が重要となります。これらは、医師(スリット作成)または医師の指示に従って看護師が行ないます(植え込み)。そのため、たとえどれだけ実績のある医師でも、看護師の経験が足りない場合は、十分な植毛手術が出来ない可能性があり、逆もまた然りです。必ず医師や看護師の経験を確認しておきましょう。将来を見据えた植毛デザインにおいてもクリニック(医師)の経験が大変重要となります。(同じ密度でも移植する株(1本毛~3本毛程度)によって見え方は変わりますし、部位によっても使用する株の調整は必要です)
また、十分な密度で移植する範囲が広くなるほど、移植株の数が必要になります。「FUT植毛とFUE植毛どちらが良いのか」で詳しく解説していますが、基本的には、採取するドナー株数が多いほどFUT植毛が向いていますし、少ないほどFUE植毛が向いていますので、無理のない植毛をするためにも、どちらが向いているのかわからない場合や、はじめての植毛の場合などは、まずFUTとFUEの両方を取り扱っているクリニックで相談をする事をお勧めいたします。
医師との相談をしっかり行う
術前の密度イメージとかけ離れた結果にならないよう、事前に医師とじっくり相談した上で、相談した医師によって手術をしてもらうようにしましょう。通常お悩みを医師に直接相談して、症状を診断してもらい、その結果やご希望に応じて適切な密度や範囲も踏まえた治療計画が立てられます。その際に医師から植毛のメリット・デメリットはもちろん、副作用やリスク、予想される効果なども説明されますので、理解・納得をされた上でご自身によって決定するよう心掛けましょう。もし不明な点があったら理解・納得できるまで何度でも相談するようにしましょう。また、希望を汲み取った上で治療プランを組んでくれるか、術後の相談はしやすそうかなども考慮して、医師との相性も確認しておきましょう。
期待できる効果を確認・認識しておく
植毛は、自身の髪の毛の総量を越えて生える訳では無く、髪の毛がある部分から採ってきて、薄い部分に移植する治療法になります。つまり生涯で移植できる毛根の量には限界があります。特に広い範囲で薄毛が目立つ場合は、全ての範囲を植毛で十分な密度にできない場合もあります。その際は薬と併用したり、長期的に良い結果につながる様に、限りある株をうまく配分する必要が出てきます。また、採取する部位の毛髪状態も見た目に影響してきます。このことを踏まえた上で、ご自身の希望と医師の提案を擦り合わせて、治療計画をたてて、納得の上で手術をするように心掛けておきましょう。
ちなみに、移植毛はAGAの影響を受けにくいため生涯生え続けることが期待できますが、既存毛はAGAの影響を受けます。そのため、もしAGAが進行して既存毛が抜けてしまうと移植毛のみが残り、密度が低く見えてしまう可能性があります(そうなった場合には2回目の手術を検討する必要があるかもしれません)。
植毛密度に満足いかない場合は
植毛後の密度に満足できない場合、以下の対処法が考えられます。これらの方法を検討する際には、ご自身の状況やご希望などを考慮して選択をするようにしましょう。もし判断に迷うようであれば、専門医に相談するとよろしいかと思います。
再手術(密度アップ)
最も直接的な対策は、追加の植毛手術を行うことです。密度が不十分な場合、再度移植を行うことで満足のいく結果を得られる可能性があります。但し、回数を重ねるほどドナー部位(通常は後頭部や側頭部)から採取できる株数は減少しますし、場合によっては「これ以上は株が採れない」となる場合があるので、まずは専門の医師と相談をしましょう。
SMP(Scalp Micro Pigmentation)
頭皮に微細な色素を注入することで、髪の毛があるように見せる方法です。SMPは薄毛や脱毛を目立たせなくする治療法として利用されています。ただし、注入した色素は時間と共に抜けてくるため、定期的なメンテナンスまたは、再度の施術が必要になりますので、継続的なコストが発生する点は考慮しておく必要があります。
AGA治療薬
細くなった毛を太くする効果を期待して、ミノキシジルやフィナステリド、デュタステリドなどのAGA治療薬の使用を行ないます。但し、個人によって効果には差がありますし、効果が出るまでには6ヶ月以上様子を見て頂く必要があります。
その他
低出力レーザー治療やかつら、増毛パウダー(所謂フリカケ)など様々な密度対策があります。ご自身の希望に合わせて選択をするよう心掛けましょう。
まとめ
植毛の密度は、見た目の自然さや術後の満足度に直結する重要な要素で、理想的な密度は個人によって違います。適切な密度を実現するためには、植毛デザイン、ドナーエリアの質と量、医師や看護師の移植技術、患者の頭皮の状態など、様々な要素を総合的に考慮する必要があります。密度の調整には高度な技術と経験が必要ですが、適切に行われれば、自然で満足のいく結果が得られます。植毛を検討している方は、信頼できる経験豊富な専門医と相談し、自分に最適な治療計画をたてることが大切です。
紀尾井町クリニックでは、植毛専門院として、1998年より皆様の薄毛のお悩み解決をサポートをしてまいりました。実績のあるノウハウと技術を基に、お悩みに寄り添って個人に合った治療プランを一緒に考えております。医師が無料でカウンセリングを行っておりますので、まずはお気軽にご相談下さい。
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 正会員
医師 中島 陽太