瘢痕性脱毛症とは?原因や予防、対策・治療法を紹介【医師監修】

瘢痕性脱毛症(はんこんせいだつもうしょう)は、通常の脱毛症とは異なり、毛包の構造が破壊されることで発生する脱毛症です。これは頭髪においても一度発生すると毛髪が再生されないため、適切な診断と早期の対応が重要です。このコラムでは、瘢痕性脱毛症の原因、予防方法、対策、そして治療法について紹介していきます。
瘢痕性脱毛症の特徴
瘢痕性脱毛症の定義
瘢痕性脱毛症(cicatricial alopecia / scarring alopecia)は、毛包が不可逆的に破壊されることで発生する脱毛症の一種です。すなわち、毛包の破壊によって毛が永久的に失われる状態を指します。このタイプの脱毛症では、毛包が破壊される過程で瘢痕(傷跡)が形成され、これが原因で毛髪が再生されなくなります。瘢痕性脱毛症は、炎症、感染症、自己免疫疾患、外傷、あるいは特定の皮膚疾患など、さまざまな要因によって引き起こされます。原因によって原発性と続発性に分かれます。原発性は主に免疫系の異常により引き起こされる脱毛で、続発性は外傷や牽引、腫瘍、感染症などが原因となり二次的に毛包が破壊されることで生じます。
瘢痕性脱毛症と非瘢痕性脱毛症の違い
一般的に脱毛症と聞くと、多くの人は非瘢痕性脱毛症を思い浮かべます。これは、毛包が一時的に機能を停止し、毛髪が抜けるものの、毛包自体は破壊されないため、再び毛髪が生えてくる可能性が残されています。毛穴は残存します。これに対して瘢痕性脱毛症は、毛包が破壊されてしまうため、永久的な脱毛が発生します。このことから、毛穴が消失します。この違いは、治療法や対応策を考える上で非常に重要になってきます。
初期症状
瘢痕性脱毛症の初期段階では、脱毛が始まる部位にかゆみや痛み、赤みが現れることがあります。毛髪が抜け始めると、脱毛部位の皮膚が炎症を起こし、浮腫や硬化が見られることがあります。瘢痕性脱毛症の場合は上述の通り毛穴が消失しますが、初期の段階では産毛が残存していることもあります。
進行した症状
瘢痕性脱毛症が進行すると、脱毛部位の皮膚が滑らかで硬くなり、瘢痕が形成されます。脱毛部分は通常、光沢を帯びた白っぽい皮膚に変わり、毛穴が見られなくなります。また、脱毛は特定の領域に留まらず、徐々に周囲に広がっていくことがあり、症状が進行するにつれて脱毛範囲が拡大していく場合があります。
痛みや不快感
瘢痕性脱毛症では、脱毛部位が痛みや不快感を伴うことがあります。特に、炎症が強い場合や感染症が関与している場合には、痛みや熱感、腫れが見られることがあります。これらの症状は、患者の生活の質に大きな影響を与えることがあり、早期の診断と治療が必要です。
瘢痕性脱毛症の原因
瘢痕性脱毛症の原因は多岐にわたりますが、主な原因は以下の通りです。
免疫系の異常
瘢痕性脱毛症の原因の一つに、免疫系の異常があります。通常、免疫系は体内の異物や病原体を攻撃して排除しますが、瘢痕性脱毛症では免疫系が誤って自身の毛包を攻撃します。この異常な免疫反応により、毛包が炎症を起こし、次第に破壊されてしまいます。結果として、破壊された毛包部分に瘢痕組織が形成され、毛の再生が不可能になります。自己免疫疾患の一環として発生することが多く、代表的なものに全身性エリテマトーデス(SLE)や扁平苔癬(へんぺいたいせん)などの自己免疫性疾患が挙げられます。免疫系の異常が持続する限り、症状は進行し、脱毛範囲が拡大するリスクが高まります。なお、円形脱毛症も自己免疫疾患の一種ですが、毛包が一時的に攻撃されて毛が抜けるものの、毛包自体は破壊されません。そのため、適切な治療や時間が経つことで、毛が再び生える可能性はあるため、瘢痕性脱毛症には含まれません。
炎症性疾患
自己免疫疾患は、毛包を取り囲む組織に慢性的な炎症を引き起こし、毛包に重大な損傷をもたらします。その一方で、毛包炎や皮脂腺の炎症も瘢痕性脱毛症の原因となり得ます。毛包炎は、細菌感染や過剰な皮脂分泌によって毛包内に炎症を引き起こし、炎症が進行すると毛包が破壊され、瘢痕組織が形成されます。皮脂腺の炎症も同様に、毛包周囲の組織にダメージを与え、毛包が機能を失い、再生が不可能になることがあります。こうした炎症性疾患は、局所的に脱毛を引き起こし、瘢痕組織が形成されることで、永久的な脱毛が生じます。炎症性疾患による瘢痕性脱毛症は通常、進行する場合があり、放置すると脱毛範囲が広がることがあります。また、炎症が起こる部位によって、脱毛の形状や分布が異なることがあります。
感染症
細菌、真菌(カビ)、ウイルスなどの病原体が頭皮に侵入すると、局所的な炎症が発生し、特に深部にまで及ぶ感染が毛包の組織を直接攻撃します。この過程で毛包は壊滅的な損傷を受け、炎症が進行するにつれて完全に破壊されてしまいます。結果として、感染部位には瘢痕組織が形成され、毛包の再生能力が失われます。特に深在性の真菌感染症や重度の細菌感染症は、瘢痕性脱毛症を引き起こしやすく、感染が拡大するにつれて脱毛範囲が広がる可能性が高くなります。
物理的損傷
外傷や火傷、事故などによる頭皮の損傷は、毛包の深部にまで影響を及ぼし、直接的な物理的ダメージを引き起こします。このような損傷により、毛包が破壊されると、その部位に炎症が発生し、組織が瘢痕化します。また、繰り返しの強い圧力や引っ張り(例: 長期間の髪の引っ張りや過度なブラッシング、きついヘアスタイル)も毛包に慢性的なダメージを与え、最終的には瘢痕性脱毛症を引き起こすことがあります。損傷を受けた毛包は再生能力を失い、その結果、永久的な脱毛が生じます。物理的損傷による脱毛は通常、損傷の程度や範囲に応じて異なる形状や大きさで現れます。
瘢痕性脱毛症の治療
瘢痕性脱毛症の治療は原因によって異なるため、皮膚科医による評価と診断が不可欠です。一般的には以下のようなアプローチが状況に応じて取られますが、詳しくは皮膚科医にご相談下さい。
医師の診察
瘢痕性脱毛症の兆候が見られたり、その恐れを感じる場合は、症状が悪化する前に速やかに皮膚科の医師に相談することが重要です。脱毛の範囲や進行状況を詳しく説明し、皮膚科医の診断を受けることで、早期に原因を特定し、適切な治療法を検討できます。治療の選択肢や副作用について十分に説明を受け、治療の経過を定期的に報告することで、症状の進行を防ぎ、改善を目指します。
抗炎症治療
主に使用されるのはステロイド薬で、外用薬や内服薬、注射薬があります。ステロイドの抗炎症作用により頭皮の炎症が抑えられます。ステロイド外用薬は局所的に適用し、炎症を軽減することで毛包の破壊を防ぎ、脱毛の進行を抑えることが期待されます。ステロイド薬の内服や注射は全身的な炎症を抑えるために使用され、重度の症例や広範囲にわたる炎症に対応します。通常、期間を区切って使用します。炎症の軽減と症状の改善が見られた時点でステロイドの量を徐々に減量していきます。
感染症の治療
細菌感染による場合、抗生物質が処方され、感染の原因となる細菌、真菌やウィルスを特定し、それに対する効果的な薬剤が選ばれます。真菌感染の場合は、抗真菌薬が使用され、真菌を排除することで炎症の軽減を図ります。ウイルス感染が原因の場合には、抗ウイルス薬が用いられ、ウイルスの増殖を抑えることで感染の治癒を目指します。治療が進むにつれて、炎症が落ち着き、毛包の損傷を最小限に抑えることが期待されます。適切な治療を行うことで、瘢痕性脱毛症の進行を防ぎます。
外科的治療
原因が取り除かれ、脱毛部が残存した場合に瘢痕組織の除去や自毛植毛を実施することがあります。瘢痕組織の除去は、瘢痕化した皮膚を切除し、その後に縫合して間隔を埋めたり、健康な皮膚を移植する等の方法が取られます。また、自毛植毛では、他の部位から健康な毛包を取り出し、脱毛部位に移植することで毛髪の再生を試みます。手術の成功率や再発リスクは瘢痕の状態や体質などによって異なるため、手術後は十分なケアと医師との継続的なフォローアップが必要です。詳しくは次の項目で紹介します。
瘢痕性脱毛症に植毛は適応されるのか
瘢痕性脱毛症において植毛が適応されるかどうかは、症例ごとに異なります。まず大前提として、瘢痕性脱毛症の原因が既に取り除かれている(治療済みである)ことが条件となります。
瘢痕性脱毛症では、毛包が破壊され、瘢痕(傷跡)が形成されるため、通常の皮膚とは異なる条件が存在します。このため、植毛の成功にはいくつかの要因が重要となります。まず、瘢痕の状態が鍵となります。瘢痕組織は通常の皮膚に比べて血流が悪く、栄養供給が制限されているため、移植された毛髪が生着しにくい場合があります。しかし、瘢痕が柔らかく血流が比較的良好な場合には、植毛が成功する可能性が高まります。逆に、血流が悪いところに高密度で移植しても、しっかり定着せずに脱落してしまうリスクがあります。
また、頭皮の柔軟性も重要な要素です。頭皮が硬く、血流が悪い場合、移植された毛髪が根付くのは難しくなります。一方で、柔軟性があり、血流がある程度保たれている頭皮では、植毛の成功率が上がることがあります。さらに、瘢痕性脱毛症の治療には、瘢痕特有の課題に対応ができる、熟練した医師と看護師が施術を行うことが求められます。植毛はチーム医療なので、医師と看護師の双方の経験と技術も重要な要素となります。
頭皮が硬く、血流が悪い場合などは、まず1回密度を低く植毛し、それが生え揃った1年後くらいに2回目の手術で高密度を目指す、「二期的手術」を行うことが多いです。これは1回目の手術で移植した毛根が成長する過程で周囲から血流を引っ張ってくることで、瘢痕部の血流が改善し、そこに2回目の移植を行うことで高密度で定着することを目指す治療です。
手術後のケアも非常に重要です。瘢痕性脱毛症の植毛は、通常の植毛よりも慎重な術後管理が必要とされます。移植後の頭皮の状態を注意深く監視し、炎症や感染のリスクを最小限に抑えるための適切な処置が必要です。このように、瘢痕性脱毛症に対する植毛の成功は、通常の植毛と比較して難易度が高いものの、瘢痕性脱毛症への植毛経験が豊富なクリニックを選ぶことで、良好な結果が得られる可能性が高くなります。植毛は、リスクや副作用が伴う手術なので、必ず事前に医師から十分な説明を受けてじっくりと相談をした上で、ご自身の判断によって選択する事が重要です。
総じて、瘢痕性脱毛症に対する植毛は適応される場合があるものの、個々のケースによって異なります。頭皮や瘢痕の状態、クリニックの技術やノウハウ(医師・看護師)、そして術後ケアの質が成功の鍵を握っており、これらを総合的に考慮する必要があります。つまり、十分な経験を有した医師と看護師が在籍しているクリニックを選ぶことが重要です。※当院の症例は、「人工毛植毛後の瘢痕(はんこん)性脱毛への植毛」にてご確認ください。
まとめ
瘢痕性脱毛症は、炎症や外傷、感染症などによって毛包が破壊され、永久的な脱毛を引き起こす疾患です。この脱毛は瘢痕組織の形成によって進行し、再生が困難です。治療には抗炎症治療、外科的治療などがあります。早期の診断と適切な治療が重要であり、悪化を防ぐために速やかに医師に相談することをお勧めします。
1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院としての実績を持つ紀尾井町クリニックでは、AGA治療薬は勿論、国内でも数少ないFUT法とFUE法の両方に対応できる、AGA治療専門のクリニックです。人工植毛による瘢痕や外傷(手術痕、やけど等)による瘢痕など、瘢痕性脱毛症への植毛経験も豊富です。瘢痕性脱毛症やAGAでお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 会員
医師 中島 陽太