第17回国際毛髪外科学会(ISHRS)のご報告
第17回国際毛髪外科学会(ISHRS)で、紀尾井町クリニック本院の柳生元院長の発表が大変注目され、好評でした。
研究発表の演題は「Prevention of cardiovascular events in high risk patients」でした。これは心臓血管系の持病をもつ患者さん達に安全な植毛手術をおこなったこれまでの結果を集計して、高リスクの症例に安全な手術をおこなうための具体的な対策と方法を述べたものです。特に胸部大動脈瘤、脳梗塞、狭心症などの病気をもつ高齢の患者さんたちに植毛手術を安全におこなった実例など、治療の内容が具体的に述べられると、会場は大きな驚きに包まれました。
心臓血管外科と外科・循環器内科・呼吸器内科などの専門医の資格をもつ柳生元院長ならではの緻密な全身管理と優れた手術結果の発表に、世界中の植毛専門医たちが大きな感銘を受けました。
広いアメリカでも、心臓病のある患者さんの植毛手術を引き受ける医師はいないようでした。そのため、今回の発表で、重症の心臓病があっても植毛手術を安全におこなえる外科医がいることは、大きな驚きだったようです。発表後、世界を代表する高名な植毛医たちから、たくさんの賛辞と質問が寄せられました。
「ISHRS学会の長い歴史の中でかつて発表されたことのないテーマなので、発表前から楽しみにしていた。実際の発表はすばらしい内容だった。」(元ISHRS会長 Paul Cotterill博士 /トロント)
「とても良い発表だった。」(ISHRS会長夫人 MaryAnn Parsley氏 /ケンタッキー)
「来年の学会でも、循環器の合併症を予防する方法を、もっといろいろ話してほしい。」(ISHRS副会長 Edwin Epstein博士 /バージニア)
「とても参考になった。」(カナダの植毛学会会長 John Gillespie博士 /カルガリー)
「この学会で循環器の話を聞くのは冗談かと思うくらい驚いた。自分は以前に救急医だったので、冠血管拡張剤の薬を予防的に使うのは、確かに優れた方法だと思う。」(Ronald Shapiro博士 /ミネソタ)
「麻酔の方法はどうしているのか教えてほしい。麻酔医の専門医に手伝ってもらっているのか。自分ひとりで全部できるのは驚いた。」(ISHRS元会長、Russell Knudsen博士 /オーストラリア)
「VIP症例で重症のアスピリン喘息があり薬の制約が多い症例の治療法に悩んでいる。安全に手術をするために内服薬の調節方法をアドバイスしてほしい。自分は皮膚科出身なので意見を聞きたい。」(Craig Ziering博士 /ハリウッド)
「ベータ遮断薬は、植毛手術前に中止すべきだろうか?」(アメリカ 某博士)
「アメリカの植毛学会では、循環器系薬剤の術前調節に関して、誤った公式見解が以前に出されていて、今でもその指針に従っている医師が多い。今後それらの誤りを正すために発表を続けてほしい。」(Steven Chang博士 /カリフォルニア)
「皮膚科出身者が多いこの学会では、心臓病の患者は、こわくて扱えない。循環器の専門医でもないし、同じようなことは自分たちにはできない。」(アメリカ 某博士)
「フロリダ州では外来での日帰り手術では静脈注射が禁止されているので、循環器系の変化に対応できない。自分はこれまで心臓病の人は植毛手術をしなかった。今後も植毛手術は断るつもりだ。」(ISHRS元会長Paul Rose博士)
「ケンタッキー州では外来手術でも静脈注射は使えるが、医療法の制約はいろいろ厳しい。長年のあいだ心臓外科医として活躍したドクター柳生は、豊富な経験と秀でた実績があるからこそ、重症の症例でも安全な手術が可能になるのだろう。」(ISHRS会長Parsley博士)
など、さまざまな意見や質問が寄せられました。
開会式とHippocratesの誓い
今年の国際毛髪外科学会(ISHRS)では、会長の開会式セレモニーに特別の趣向が凝らされていました。
世界各国から選ばれた代表15人が壇上に並び、ギリシア ※ Hippocratesの誓い を一節ずつ順番に各国語で述べて宣誓し、最後にParsley学会会長が今年のISHRS総会の開会を宣言するというものでした。その際に、紀尾井町クリニック本院の柳生元院長が世界を代表する15人に選ばれました。世界的に有名な各国の植毛専門医たちとともに、開会宣言に参加する大役をになう栄誉を得ました。
引き続き開始されたISHRS学会総会では、連日多数の発表と熱心な討議が繰り返されました。
※ ヒポクラテスの誓い
ヒポクラテス:紀元前460年頃~375年頃のギリシャの医師。科学的な医学を発展させ「医学の父」「医聖」と呼ばれた。医師の倫理性と客観性を重んじた。
ヒポクラテスの誓い(ヒポクラテスのちかい、英語: The Hippocratic Oath)は、医師の倫理・任務などについての、ギリシア神への宣誓文。現代の医療倫理の根幹を成す患者の生命・健康保護の思想、患者のプライバシー保護のほか、専門家としての尊厳の保持、徒弟制度の維持や職能の閉鎖性維持なども謳われている。
ヒポクラテスの誓い(日本語訳)
医の神アポロン、アスクレピオス、ヒギエイア、パナケイア、及び全ての神々よ。私自身の能力と判断に従って、この誓約を守ることを誓う。
この医術を教えてくれた師を実の親のように敬い、自らの財産を分け与えて、必要ある時には助ける。
師の子孫を自身の兄弟のように見て、彼らが学ばんとすれば報酬なしにこの術を教える。
著作や講義その他あらゆる方法で、医術の知識を師や自らの息子、また、医の規則に則って誓約で結ばれている弟子達に分かち与え、それ以外の誰にも与えない。
自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない。
依頼されても人を殺す薬を与えない。
同様に婦人を流産させる道具を与えない。
生涯を純粋と神聖を貫き、医術を行う。
膀胱結石に截石術を施行はせず、それを生業とする者に委せる。
どんな家を訪れる時もそこの自由人と奴隷の相違を問わず、不正を犯すことなく、医術を行う。
医に関するか否かに関わらず、他人の生活についての秘密を遵守する。
この誓いを守り続ける限り、私は人生と医術とを享受し、全ての人から尊敬されるであろう!
しかし、万が一、この誓いを破る時、私はその反対の運命を賜るだろう。
( 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』から引用)
話題
第17回国際毛髪外科学会(ISHRS)がオランダのAmsterdam市南部のRAI convention centre で2009年7月22日~26日に開催されました。今年のISHRS学会は久しぶりにヨーロッパで開催されました。かつて世界貿易で繁栄を極めた豊かな町は、経済や文化の中心として今でも活発に活動する街でした。
今回の学会では、さまざまな話題が議論されました。炎症性皮膚疾患による瘢痕性脱毛への植毛、移植株の小ささと発毛率の低下、trichophytic closure法と表皮切除範囲、さまざまなtrichophytic closure法の優劣、FUE法で多数株の移植ができるか、男性型脱毛症に対するデュタステリドの臨床治験、女性型脱毛症とフィナステリドの効果、脱毛症の薬物治療、ヘアラインのデザインの症例毎の比較、ドナー縫合での1層縫合と2層縫合の優劣、低出力レーザー治療の作用機序、メガセッションとギガセッションの比較、ヘアサイクルと髪の成長、髪の成長のdigital imaging解析、ドナー密度と人種差、成長促進因子、培養細胞の研究、stem cell移植、眉毛とまつ毛の移植、ドナー傷の形成外科的修正、表皮切除と皮脂腺の温存、などが話題になり、それぞれに活発な討論が熱心に繰り返されました。