眉毛・ヒゲの植毛について【医師監修】

眉毛・ヒゲの植毛について

 眉毛やヒゲへの植毛は、頭髪への植毛と同様に自身の髪の毛を活用して行う事ができます。眉毛やヒゲは顔の個性に影響を与える重要な要素であり、眉毛やヒゲは、人によっては自信を高めるだけでなく、自己表現の手段となることもあります。しかし、遺伝的要因や外傷、火傷、病気、ストレス、過剰な抜毛などによって、眉毛やヒゲが薄くなる、あるいはまったく生えなくなることがあります。このような状況に対する解決策のひとつとして、眉毛やヒゲへの植毛という選択肢があります。本コラムでは、眉毛やひげの植毛について紹介していきたいと思います。

眉毛・ヒゲ植毛の特徴

 眉毛の形や濃さは、顔の表情やバランスに大きな影響を与え、眉毛の濃淡や形によって、顔全体の印象が変わることがあります。また、ヒゲは男性の顔の印象を大きく左右します。濃いヒゲは男性らしさや成熟した印象を与えることがあります。頭部の植毛と違う点としては、移植先の皮膚の違いやデザイン、方向や角度、皮膚の状態など様々あり、どちらかというと頭髪の植毛よりも比較的移植難易度が高く、費用も頭部への植毛より高い傾向があり、クリニックによっては対応していない場合もあります。

デザイン

眉毛植毛

 まず個々の眉毛の形状と顔のバランスを考慮することから始まります。眉毛のデザインは、顔の表情や骨格、ご希望などに合わせて調整されます。眉毛のアーチや形状は、目の形や高さ、顔の輪郭に応じて調整されます。例えば、眉頭を少し高めに設定すると、目元が引き締まった印象を与えることができます。一方で、眉尻は自然に下がるようにデザインすることで、柔らかい印象を保ちます。また、眉毛の密度や毛の流れも考慮し、自然な仕上がりを目指します。患者様ごとに希望される形状は異なるため、御自身でアイブロウペンシルなどで描いていただき、それに合わせてデザインを決めていただくことも可能です。

ヒゲ植毛

 ヒゲのデザインは、顎の形や頬のライン、全体の顔のバランス、ご希望などに合わせて調整されます。ヒゲの密度や形状は、顔の個性や希望に応じてカスタマイズされます。例えば、あごひげや口ひげの形状は、顎のラインに沿って自然に見えるように配置されます。また、ヒゲの方向や流れは、実際の生え方に合わせることが重要です。ヒゲに関しても、生やしたい範囲をペンシルなどで患者様御自身に描いていただき、デザインを詰めていくことが可能です。ヒゲが自然に見えるためには、毛の向きや角度を微調整し、顔全体との調和を保つ必要があります。

毛の方向や角度

眉毛植毛

 眉毛の毛は眉頭から眉尻にかけて徐々に方向が変わります。眉頭では毛が垂直に近く立ってに生えており、眉尻に向かって毛が寝ていくのが一般的です。基本的には元々生えている眉毛の流れの方向と合せて移植しますが、部位によって細かく調整する必要があります(部位によっては自然の毛流とあえて異なる角度で移植することもあります)。眉毛の形や弧も考慮し、毛の角度を微調整することで、よりリアルな眉毛が作られます。

ヒゲ植毛

 ヒゲの毛は顎や口周り、頬で異なる方向に生えています。例えば、顎下では毛が下向きや横向きに生えることが多く、口元や頬では毛が上から下に向かって生えることが一般的です。この自然な毛の流れを再現するために、植毛する際には毛の方向を慎重に設定します。ヒゲの毛は皮膚に対してほぼ直角に生えていることが多いですが、部位によってわずかに角度が異なる場合もあります。これを再現するために、毛の角度を調整し、顔全体とのバランスを取ることが大切です。

皮膚の状態

眉毛植毛

 眉毛の植毛が行われる部位の皮膚は、頭皮と比べると柔らかいです。眉毛は顔の上部に位置し、皮膚の厚さが薄く頭皮よりも伸縮性が高いため、毛包の移植には特別な技術やノウハウが求められます。柔らかい皮膚に毛包を移植する際には、慎重に手作業で毛包を配置する必要があります。過度の圧力や不適切な処置が行われると、毛包が損傷する可能性があります。また、皮膚が柔らかい分、術後の回復も比較的早いですが、細心の注意が必要です。皮膚の柔らかさに合わせて、毛の角度や密度を調整し、自然な仕上がりを目指します。

ヒゲ植毛

 ヒゲが植えられる部位の皮膚は比較的厚く、しっかりしています。顎や口周りの皮膚は、眉毛よりも硬いのですが、こちらも頭皮より伸縮性が高いため、毛包の移植には特別な技術やノウハウが求められます。皮膚の硬さにより、毛包を正確に配置するために、より慎重な操作が求められます。また、ヒゲの植毛では、眉毛よりも移植する範囲が広くなる傾向があり、皮膚の状態も異なる場合があります。その為、移植先の皮膚の厚さや弾力性を考慮しながら、毛の方向や角度を細かく調整していく必要があります。

生えてくるのは「髪の毛」

 眉毛やヒゲの移植で留意すべき点として、移植して生えてくるのは髪の毛であることです。ヒゲや眉毛と髪の毛は太さが異なります。また、髪の毛は1つの毛根から複数の毛が生えてきますが、眉毛やヒゲは1本しか生えません。これらのことを留意して、株作成の場合は2本毛の株を1本毛に分けるなどの工夫が必要となります。また、眉毛やヒゲと髪の毛では伸びるスピードや長さが異なることも注意が必要です。眉毛やヒゲはある一定のところまで伸びると成長が止まりますが、髪の毛は長く成長します。このことから、移植した後の眉毛やヒゲを放置すると、移植毛だけが長く伸びてしまい元々の眉毛やヒゲは短い、という不自然な状態になります。ですので、移植後の眉毛やヒゲは定期的なトリミング(トリマーやハサミで長さを一定に保つこと)が必要となります。

眉毛・ヒゲの植毛方法

  眉毛やひげの植毛は頭髪の植毛と同様、大きく下記の2つの植毛方法によって行なわれます。

FUT法 (Follicular Unit Transplantation)

 AGAに強い性質を持つドナーエリア(移植株を採取するエリア)から皮膚のストリップ(帯)を切り取り、そこから毛包単位を分離し(株分け)、移植部位に移植していく方法。移植数が多いケースに向いている方法

  • 生涯に採取出来るドナー株数が多い(約5,000~7,000株程度)
  • 後頭部に横に走る細い線状の縫合痕が1本残る(髪を伸ばす事で隠せます)
  • 高い有効採取率(双眼実体顕微鏡を使って手作業で切り分け)
  • コスト(FUE法よりも安いことが多いです)
  • メスで頭皮を切る手術である(人によっては心理的なハードルが高い場合がある)
  • 頭皮の硬い方は採取できるドナー株数が限られる

※詳細は当院公式サイト「ボリューム植毛FUT」でご確認いただけます。

FUE法 (Follicular Unit Extraction)

 ドナーエリア(移植株を採取するエリア)から、専用の器具を使って1株ごとにくり抜いていく方法。移植株が少ないケースに向いている方法。

  • 生涯に採取できるドナー株数はFUTの約半分(約2,000~3,000株程度)
  • 傷跡が目立ちにくい(ひとつの傷痕は約1mm前後のサイズの白い斑点状の傷。ただし採取し過ぎると髪の密度低下に繋がり大きなデメリットとなります)
  • 有効採取率は医師の経験や技量に左右される
  • コスト、手術時間(FUT法よりも高いことが多く、また株数の多い手術の場合は手術時間が長い傾向があります)
  • 広いバリカン幅(採取する部分を広くバリカンで刈る必要がある。刈らない方法を採用する所もありますが、費用が高額になる傾向があります)
  • 頭皮が硬く可動性が少ない方でも採取可能

※詳細は当院公式サイト「くり抜く植毛FUE」でご確認いただけます。

眉毛・ヒゲ植毛の流れ

 眉毛・髭の植毛は、基本的には髪の毛の植毛手順と変わりません。

カウンセリング

 最初に、専門の医師とのカウンセリングを行い、希望する眉毛の形や濃さ、移植する毛の採取方法などを決めていきます。

手術

デザイン

 手術前にドナー株数、移植範囲や密度配分について、ご希望をお伺いして最終的なデザインの確認を行います。このデザインに基いて植毛が行われます。

ドナーの採取

 FUE法(Follicular Unit Extraction)または、FUT法(Follicular Unit Transplantation)のいずれかの採取方法を用いて毛を採取します。基本的には、移植毛の数が少ないほどFUE法が、数が多いほどFUT法が向いています。FUTを行なう場合は、採取後に「株分け」といわれる工程があります。

移植

 採取した毛を、事前に決めたデザインに基いて慎重に移植していきます。毛の角度や方向を調整しながら、自然な見た目を目指します。

術後説明

 植毛手術後、副作用や痛みを緩和する薬の飲み方の説明、移植した髪の毛にダメージを与えないための生活面での注意点、洗髪方法など、詳しくご説明します。

アフターケア

 移植毛がしっかり根付く術後1週間を過ぎれば特に気を遣う必要なく、普段通りの生活(洗髪・洗顔含む)に戻れます。通常、術後約半年の間に移植した毛髪は生え始め、およそ1年後には自毛植毛の効果が実感できるようになります。このように効果を実感するまでに時間がかかるため、その間に様々なご心配が出てくる事もあるかと思います。その際は手術を行なったクリニックにご相談下さい。

眉毛・ヒゲ植毛の術後とケア

 移植後は、一時的に赤みや腫れが生じることがありますが、腫れは数日で治まります(赤みが引くのにはもう少し時間がかかることがあります)。移植された毛は、大抵術後1ヶ月程度で一度抜け落ちた後、再び成長を始めます。効果を感じて頂くまでには約6ヶ月から1年かかります。移植後のケアとしては、移植毛が定着するまでは特に以下の点に注意が必要です。心配な場合は、遠慮をせずに施術をしたクリニックに相談をしましょう。詳しくは「治療後の過ごし方」でもご確認いただけますが、必ず施術をされるクリニックで確認するようにしましょう。

【移植毛が定着するまでに注意する事】

  • 移植部の洗髪・洗顔は翌日夜からしばらくは、スプレーで濡らして洗う程度
  • 長時間の入浴や熱いお湯に入るのは避ける
  • 強い摩擦や圧力を避ける
  • アルコール摂取、喫煙、運動は避ける
  • 日焼けを避ける
  • シェービングは避ける

眉毛・ヒゲ植毛の副作用やリスク

 眉毛やヒゲの植毛には、以下のような副作用やリスク、注意点があります。

ドナー採取部の傷痕

FUT

 後頭部に1本の横に走る細い線状の縫合痕が残ります。周囲の髪の長さが2cm以上あれば、傷を隠す事ができます。傷痕が気になる場合は、SMP(Scalp Micropigmentation)やFUE法による傷修正などで目立たなくする事ができます。

FUE

 後頭部に1mm程度の小さな米粒大のくり抜き痕が、採取した数分だけ(1000株採取なら1000個のくり抜き痕)残ります。周囲の髪の長さがおよそ1cm以上あれば、傷を隠す事ができます。傷痕が気になる場合は、SMPで目立たなくする事ができます。

術後すぐに見られる症状

 痛み、出血、吐き気、移植部位のかさぶたや赤み

術後、数日経ってから見られる症状

 額やまぶたの腫れ、かゆみ、しゃっくり、しびれ、移植毛のくせ

術後、数週間から数ヵ月後の間に見られる症状

 一時的な脱毛(ショックロス)、感染症・膿胞、移植毛のくせ

その他

 植毛手術のみならず外科手術全般に考えられる事ではありますが、手術において、通常ではみられない合併症や偶発症が発生することがごく稀にあります。どんな医療施設でもその可能性をゼロにはできません。軽症例では抗生物質や消炎鎮痛剤に起因するアレルギーで発疹が出現したり、重症例では麻酔薬のアナフィラキシー・ショック(血圧低下や意識障害など生命に危険が及ぶ過敏反応)などが発生する可能性もあります。自毛植毛手術においては、まれに移植株の生着不良例が報告されていますが、その原因は明らかではありません。

眉毛・ヒゲ植毛の留意点

 眉毛・ヒゲに限らず、自毛植毛自体の代表的な留意点は以下の通りです。詳細は、カウンセリングなどのご相談の際に医師にご確認ください。

  • 経験豊富な医師及び看護師が在籍しているクリニックを選ぶ事が重要である
  • 進行するAGAを見据えた上でのデザイン・施術を行う必要がある
  • かつらや人工毛植毛とは違い、手術後に効果が感じられるまでには時間がかかる
  • 生えてくるのは髪の毛であり、放置すると既存の眉毛やヒゲより長く伸びてしまう。定期的なトリミングが必要となる。
  • FUT及びFUEいずれの方法を行うにしても、毛根を採取した箇所には線状又は採取した株数分の米粒大の採取痕が残る(2~4cm程度髪を伸ばせば隠す事が可能)
  • 自由診療の為、クリニックごとや希望範囲等により異なるが、1回の手術費用は他のAGA治療費に比べて高額である
  • 自毛を使うため採取できる株数には限界があり、どう活用していくのかを慎重に検討する必要がある(広範囲に植毛すると密度不足になる可能性があるなど注意が必要)
  • 仕上がりや移植先の毛根定着率は手術を担当する医師や医療スタッフの医療技術や自身の体質による
  • 手術にはリスクや合併症が存在し、状態によっては適さない場合もある
  • 手術は植毛のメリット・デメリット副作用・リスクなどの説明を受けて納得した上で、ご自身の判断によって決定するよう心掛ける
  • そのほか、手術後の経過中にいろいろな症状や副作用が出現する可能性がある

眉毛・ヒゲ植毛を行う医療機関の選び方

 眉毛・ヒゲの植毛をご検討される際に、考慮しておくポイントを簡単にご紹介します。詳細に興味のある方は「植毛で失敗しないための5つのポイント」を併せてご参照下さい。これらを考慮して、極力複数の植毛クリニックに相談をして、ご自身に合うクリニックをお探しになる事をお勧めします。

経験豊富なクリニック(医師・看護師含む)を選ぶ

  • 医師や看護師は、眉毛やヒゲへの植毛手術の十分な経験があるのか
  • 植毛に特化したクリニックか
  • FUT植毛とFUE植毛の両方に対応しているか
  • 植毛デザインや技術など、実績を基にしたノウハウを持っているか
  • FUE希望であれば、ドナー採取部分を刈る方法と刈らない方法に対応しているか
  • FUT希望であれば、ドナー採取部分の縫合方法に「トリコフィティック縫合法」を採用しているか

医師との相談を十分に行う

  • 医師十分な時間をとって相談ができるかどうか
  • 医師との相性、コミュニケーションは問題ないか
  • 植毛についてのメリット・デメリット、副作用やリスクなどを納得するまで確認しておく
  • ドナー採取エリアの傷痕も数例確認する(FUTの縫合痕・FUEのくり抜き痕いずれも必ず傷は残ります)
  • 相談した医師が手術まで一貫して担当しているか
  • ドナー採取でできた傷修正への対応ができるのか、どの様な方法で出来るのか
  • 植毛デザインと移植数のバランスや密度に問題はないか

費用を確認

  • 費用の構成は分かり易いか
  • 植毛手術(事前相談+手術+アフターフォロー)の総額はいくらになるのか
  • 追加の費用が発生する可能性があるのか(隠れた費用や条件の確認
  • 効果があるのか不明なオプションはその場で決めない
  • その場での治療の催促には注意を払う

アフターフォローの確認

  • 術後のアフターフォローは無料なのか有料なのか
  • 施術した医師や看護師が相談に乗ってくれるか
  • 有料になるケースはどんな場合か

期待できる効果を確認・認識する

  • 効果が実感できるのは移植後およそ1年後
  • 個人の体質や状況によって効果には差がある
  • 密度を高くすれば範囲は狭くなり、範囲を広くすれば密度は低くなる
  • 移植毛はAGAに強く伸び続けるため、手入れが必要
  • 植毛はFUT・FUEいずれにしても採取部分には必ず傷痕は残る

まとめ

 眉毛やヒゲの植毛は、見た目や自己表現に大きな影響を与える重要な手術です。気になる場所への自然な植毛は、自信を高めることが期待できます。そのためには、適切な専門医とのカウンセリングと経験豊富な医療機関の手による手術をおすすめします。眉毛やヒゲの薄毛に悩んでいる方は、一度専門の医師に相談をするところから気軽に始めてみましょう。
 1998年より自毛植毛専門院としての実績を持つ紀尾井町クリニックは、国内で数少ないFUTとFUEの両方に対応できるクリニックです。経験豊富な医師が直接相談を承った上で、状況やご希望に合わせて無理のない治療プランを一緒に考えております。眉毛やヒゲの薄毛でお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。

AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 正会員
医師 中島 陽太