M字型の薄毛(M字ハゲ)は植毛で治療できますか?【医師監修】

 薄毛や抜け毛は、年齢を重ねるにつれて多くの男性が直面する悩みです。その中でも特に、前頭部の生え際が後退することでできる「M字型の薄毛(M字ハゲ)」は、多くの男性にとって深刻な問題となります。M字型の薄毛は、主にAGA(男性型脱毛症)の発症によって進行していきますが、本コラムでは、M字型の薄毛に対する治療法の一つである「植毛」について、その概要からM字方の薄毛に対する適応、効果、手術の流れ、治療後のケアそして副作用やリスクまで、詳しく紹介していきます。

M字型薄毛の特徴と原因

 M字型薄毛は、前頭部の生え際の「そりこみ」部分が後退することで、額の形がアルファベットの「M」のように見える状態を指します。これは、AGA(男性型脱毛症)の進行パターンの一種であり、主に遺伝や男性ホルモンの影響によって引き起こされます。M字型は左右の「そりこみ」部分から薄毛が頭頂部に向かって進行していき、正中部分(中央部)を囲むように進行して島のような形で残って進行していく場合があります。もしO字型と言われる頭頂部の薄毛も発症している場合は、生え際の薄毛と重なる場合があり、より広い範囲の薄毛になる場合があります。

遺伝的要因

 M字型の薄毛は、遺伝的な要素が影響を与える可能性が高いです。家族に薄毛の人がいる場合、特に父親や母方の祖父が薄毛であると、M字型の薄毛を含むAGAになるリスクが高くなります。但し、遺伝によって必ずなるという訳ではなく、その可能性が高いということになります。

ホルモンの影響

 男性ホルモンであるテストステロンが、5α還元酵素(5αリダクターゼ)という酵素によってジヒドロテストステロン(DHT)に変換されると、これが毛包に作用して、毛髪の成長サイクルを短縮させます。その結果、毛が細く短くなり、最終的には成長が止まり、抜け毛が増えていきます。AGAの中でもM字型の薄毛では、特に前頭部の毛包がこのDHTに敏感であるため、他の部位よりも早く薄毛が進行します。なお、このDHTへの感受性は遺伝の影響が大きく関わっています。

生活習慣やストレス

 食生活、睡眠不足、喫煙、過度のアルコール摂取などの生活習慣やストレスもAGA(M字型の薄毛)を悪化させる要因となります。これらの要因は、ホルモンバランスに影響を与えたり、頭皮の血行を悪化させることで、毛包の健康を損ない、薄毛の進行を早めてしまう場合があります。

植毛とは?

 植毛(自毛植毛)とは、自分の健康な毛髪(AGAに強い性質を持つ髪の毛)を脱毛部分に移植する外科的治療法です。植毛手術は、AGA治療薬では効きにくいM字型薄毛に対しても効果的な治療法の一つとされています。移植毛が定着した後は、他の髪の毛同様に、洗髪やパーマ、染髪、整髪料の使用などもでき、伸びてきたら床屋さんや美容院さんでカットするだけ。買い替えやメンテナンスなどの手間や費用もかからず、特別な管理は必要ありません。
 植毛には、主にFUT(Follicular Unit Transplantation)法とFUE(Follicular Unit Extraction)法の二つの方法があります。どちらが優れているということはなく、いずれの方法もメリットデメリットがあり、必要に応じて使い分ける事をお勧めします。また、植毛は薄い部分に自分の伸びてくる髪の毛を移植する魅力的な治療ですが、メリット・デメリットの他、副作用やリスク、注意点などもありますし、クリニックによって大きく違いが出る治療でもあるので、極力複数のクリニックで医師と相談をして、お決めになる事をお勧めします。クリニックの選び方は、当院コラムの「植毛で失敗しないための5つのポイント」をご参照下さい。

FUT法

 FUT法は、ドナー部位(通常は後頭部や側頭部)の皮膚を帯状に切り取り、そこから毛包単位(Follicular Unit)を顕微鏡を使って手作業で分離(株分け)して、薄毛部分に移植する方法です。FUT法のメリットは、FUEと比べて約2倍の毛包を採取(生涯に採取できるドナー株数は約5,000~6,000株)できることや、断面を目視で確認しながら手作業で株分けする為、ドナー部位の毛根の切断率が低いこと、そして、費用がFUEに比べると安価である点が主に挙げられます。デメリットとしては、皮膚を切除するため、ドナー部位に線状の傷跡が残ること、FUEに比べると傷の治りが若干遅い事、頭皮の硬い方は採取できるドナー株数が限られること、等が挙げられます。なお、FUEよりも工程が多く、対応できる熟練の看護師も複数名必要で、そのノウハウや育成を継続する事は非常に難しいため、年々このFUTを行なえるクリニックは少なくなっているという特徴もあります。詳細は「ボリューム植毛FUT」をご参照下さい。

FUE法

 FUE法は、専用の機材を使用してドナー部位から毛包単位を一つずつくり抜いて採取して、薄毛部分に移植する方法です。FUE法のメリットは、毛包単位でくり抜くため、一つ一つの傷は米粒大の小さな傷で目立ち難いこと、回復がFUTに比べると早いこと、頭皮が硬く可動性が少ない方でも可能なことなどが挙げられます。デメリットとしては、生涯に採取できるドナー株数はFUTの約半分(約2,000~3,000株)であること、一つ一つの傷は小さいが、採取株数と同数の傷が残るため、採取するほどドナー部の密度が下がり、傷の総面積は増加してしまうこと、費用はFUTよりも高額(同じ株数の場合)になる場合がほとんどであることが挙げられます。また、断面を見ながら毛包を採取するわけではないので、毛根の切断率は医師の経験・技術によるところは大きくなるという特色もあります。詳細は「くり抜く植毛FUE」をご参照下さい。

M字型の薄毛に対する植毛の適応と効果

 M字型の薄毛に対する植毛の効果は、個々の患者の状況やご希望、薄毛の進行度、ドナー部位の状態などによって異なります。以下に、植毛の適応条件と期待される効果について紹介します。

植毛の適応条件

 M字型の薄毛の患者が植毛を検討する際には、いくつか考慮すべきポイントがあります。まず、ドナー部位に十分な量の健康な毛髪があることが必要です。ドナー部位の毛髪が少ない場合、移植できる毛包の数が制限されてしまう場合があります。また、薄毛の原因がAGA以外であった場合は、まずはその原因となっている疾患の治療を優先すべき場合があります(円形脱毛症、抜毛症など)。

植毛の効果

 植毛によって、M字型の薄毛が改善されると、額のラインが整い、若々しい印象を取り戻すことができます。移植された毛髪は、ドナー部位から採取された健康な毛包であるため、DHTの影響を受けにくく、長期間にわたっての維持が期待できます。手術後6か月ほどで移植された毛髪が生え始め、約1年後には大凡の効果が確認できます。植毛は、自身の髪の毛を移植しますので、質感の違和感はなく、自然な仕上がりが得られ、ゆっくりと生え揃っていくため、植毛を受けたことが周りの人に気付かれにくいといった特徴もあります。(自身でも昔の写真を見て、そのギャップに驚く方がいるほどです)
 なお、植毛の効果には個人差があり、体質や状況などによっては、ご自身が思い描いていたよりも効果を感じない場合があります。たとえば、移植する髪の毛が、細かったり白髪だったりする場合は、移植先でもその性質は受け継ぐため、太くて黒々とした髪の毛を移植した場合よりも効果を感じにくいことがあります。

生え際のデザイン

 植毛において、デザインは非常に重要な要素です。AGAの治療では薄毛の進行を前提として、現状回復と併せて、将来の見え方も考慮した植毛デザインが重要になります。ご希望、ご状況、植毛株数などを考慮した上で、M字型の薄毛に対する植毛デザインは決定されます。植毛は自身の髪の毛を移植する為、移植株は有限です。そのため、限りある資源をどう有効活用するのかを考慮する必要があります。詳しくは「植毛デザインの秘訣」をご参照下さい。

おでこは最低7センチ

 生え際は顔の印象に大きく影響し最も目立つ大事な場所です。基本的には眉間から伸ばした直線上で、生え際の中央の位置を決めていきます。標準的な位置はだいたい7~8cm(指4本分程度)です。生え際の位置を低く下げたいというご希望があっても、6cm以下に下げることは稀です。もしどうしても下げたい場合は、まず最初は以前と同じ位置に移植し、仕上がりを1年後に見ていただいた後で、生え際を下げる必要があるのかどうかをお決めになるのが良いと思います。

M字のバランス

 M字型の薄毛では、後退の速度や薄毛の程度に左右差が出来ることがよくあります。人間の体は左右が完全に対称ではありませんので、これは自然な現象といえます。左右差が気になって、一方にだけ植毛した場合、しばらくは一見バランスが取れたように見えますが、将来生え際全体がさらに後退したとき、移植毛のある側だけが低い位置で残り、既存毛だけの右側が後退して、左右でバランスが逆転する可能性があります。そのため将来を見越して左右バランスよく移植することが重要です。

生え際のデザインに沿った植毛

 M字の生え際に対する植毛デザインを決め、いよいよそのデザインに沿って植毛を行います。より自然な生え際を将来的にも再現できるよう、例えば、最前列には1本毛を入れて後ろに行くほど複数毛の株を入れていく、どういったグラデーションをどこまで入れていくのか、きっちりとし過ぎた生え際は違和感が出る為、あえて若干不揃いにするなど、その他にも様々な工夫・調整を行い植毛していきます。こうした調整は経験やノウハウごとに違う為、仕上がりはクリニックごとに大きく差が出るところでもありますので、M字の植毛を検討の際は、複数のクリニックに相談して、症例や将来的なことをどれだけ考慮しているかなどを確認するようにしましょう。

※当院の症例につきましては、「はえぎわ・M字・前頭部の植毛」をご参照下さい。ご来院の際は更に他の症例もございます。

植毛手術のプロセス

 M字への植毛手術の一般的な手順は以下の通りです。植毛方法やクリニックによって違う点もありますので、詳しくは手術を行うクリニックにご確認ください。

医師によるカウンセリングと診断

 植毛手術の最初のステップは、専門医とのカウンセリングです。患者の希望や期待、健康状態、ドナー部位の状態、薄毛の進行度を診断し、最適な治療法を提案します。M字型薄毛の進行状況を慎重に評価し、状況やご希望をお伺いした上で、適切と思われる植毛方法や株数を提案します。また、併せて植毛手術に伴う副作用やリスク、注意点や効果などついても医師から十分な説明が行われます。治療を行うか否かについては、それらを十分ご理解ご納得いただいた上で、ご自身の判断によって決定するようにしましょう。

手術前の準備

 手術前には、血液検査や健康状態の確認が行われます。手術当日は、頭皮を清潔に保ち、必要に応じて局所麻酔が施されます。FUT法の場合、ドナー部位の髪を短くカットし、皮膚を帯状に切除する準備を行います。FUE法の場合、ドナー部位の毛髪を短くカットし、毛包単位の採取がスムーズに行えるように準備します。

毛包の採取

 FUT法では、後頭部や側頭部の皮膚を帯状に切り取り、次の工程で株分けを行います。切り取った後に縫合を行いますので、後頭部を並行に走る1本の細い線状の縫合痕が残ります。FUE法では、特殊なパンチツールを使用して毛包単位を一つずつくり抜いて採取します。そのため、毛根の切断率は医師の技量によるところが大きいです。FUE法はおよそ1mm程度のくり抜き痕が採取し数分だけ残ります。縫合はしない為、一つ一つは小さな米粒大のくり抜き痕となります。どちらの方法でも、毛包が損傷しないように注意が払われ、採取された毛包は移植に向けて準備されます。

株分け

 FUT法では、帯状に切り取った皮膚を看護師複数名で双眼実体顕微鏡を使って、細心の注意を払って手作業で慎重に切り分けていきます。断面を確認しながら切り分けるため、毛根の裁断率は限りなく低く抑えられることが期待できます。FUE法でも必要に応じて採取した株を更に切り分ける事があります。

移植手術

 毛包が採取された後、移植部位に小さな切開(スリット)を行い、毛包を一つずつ移植します。移植部位のデザインや密度は、自然な仕上がりを考慮して計画されます。M字型薄毛の植毛では、特に額のラインを調整することが重視され、植毛の方向や角度にも細心の注意が払われます。手術は数時間にわたり、細かい作業と集中力が求められます。なお、クリニックによって移植部に開ける切開には違いがあり、一般的にはFUT法を行っている所はラインスリット、FUE法切開についても実際に手術をするクリニックに確認しておくと良いでしょう。

手術後のケア

 手術後は、移植部位とドナー部位のケアが重要です。術後数日は腫れや痛みが生じることがありますが、これは通常一時的なもので、医師から処方された鎮痛薬で対処できます。手術後の数週間は、頭皮を保護し、移植された毛髪を刺激しないように注意する必要があります。また、医師の指示に従って頭皮の洗浄や保湿を行い、感染症を防ぐことが大切です。ぶつけてしまった、引っ搔いてしまった等、少しでも心配になった際は、手術を受けたクリニックに遠慮なく相談するようにしましょう。詳しくは「治療後の過ごし方」をご参照下さい。

※当院の手術の流れは下記よりそれぞれご確認頂けます。

FUT植毛手術の流れ
FUE植毛手術の流れ

植毛の副作用とリスク

 植毛手術は効果的な治療法ですが、手術である以上、いくつかのリスクや副作用が伴います。以下に、考えられるリスクと副作用について説明します。症状が続いたり気になる場合は、速やかに手術を行ったクリニックに相談しましょう。

副作用

 術後に、痛み、出血、吐き気、移植部位のかさぶたや赤み、額やまぶたの腫れ、かゆみ、しゃっくり等の症状が出ることがありますが、いずれも一時的なもので、時間の経過とともに、改善します。ときには、症状の緩和のためにお薬を内服していただく場合もあります。

リスク

感染症

 植毛手術後に最も注意すべきリスクの一つは感染症です。手術中に皮膚に切開やくり抜きが行われるため、細菌が侵入しやすくなります。適切な手術環境と術後のケアが行われれば、感染のリスクは最小限に抑えられますが、術後に発熱、赤み、腫れが続く場合は、速やかに医師に相談する必要があります。

一時的な脱毛(ショックロス)

 移植後、最初の数週間で一部の移植毛が脱落することがあります。これは「ショックロス」と呼ばれる現象で、移植された毛包が新しい環境に適応する過程で一時的に毛が抜けることがあります。通常は一時的なもので、数ヶ月後には再び毛が生え始めます。

傷跡としびれ

 FUT法、FUE法のいずれの術式でも必ず傷は残ります。FUT法では、ドナー部位に線状の傷跡が残ります。この傷跡は、通常髪の毛で隠れる(2~3cm以上)ため目立たないことが多いです。FUE法では、ドナー部位に小さな米粒大の丸い傷跡が採取した株数分だけ残ります(1000株採取なら1000個残る)。こちらも髪の毛で隠れる(1~2cm以上)ことが一般的です。いずれも坊主やスキンヘッドなどの極端な短髪にした場合は、傷跡は見えてしまいます。なお、傷跡が気になる場合は、FUEでの傷修正やSMP(Scalp Micropigmentation)などで目立たなくすることができます。縫合傷やくり抜き傷の周囲のしびれや違和感は、遅くとも半年後には自然に解消します。

移植毛のくせ

 4~5ヵ月目頃から最初に生え始める移植毛は、少しカールしていることがありますが、いずれ、そのくせは落ち着いてきます。

まとめ

 M字型薄毛(M字ハゲ)は、AGAの症状の一つで、多くの男性が悩む症状です。この問題に対して、植毛は効果的な治療法として広く認知されています。FUT法やFUE法を用いた植毛手術は、一度の手術で自身の伸びてくる髪の毛を気になる部分に移植することができ、自信を取り戻す手助けとなります。しかし、手術にはメリットだけではなくデメリットやリスク、副作用なども伴うため、経験豊富な医師との相談や、術後のケアが非常に重要です。また、手術をするクリニックによっても結果が大きく変わりますので、経験豊富なクリニックで受けることをお勧めします。M字型薄毛に対する植毛を検討する際には、極力複数のクリニックで話を聞いて、自分に最適なクリニックを見極め、適切な手術を受けることが大切です。
 1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院としての実績を持つ紀尾井町クリニックでは、国内でも数少ないFUT植毛とFUE植毛の両方に対応できる、AGA治療専門のクリニックです。経験豊富な医師が個別にお悩みをじっくりとお伺いさせて頂き、一緒にAGA・薄毛治療プランを考えております。AGA・薄毛でお悩みの方、M字型の薄毛の治療をお考えの方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。

AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 正会員
医師 中島 陽太