自毛植毛の傷痕について【医師監修】

植毛を検討されている方にとって、その効果と同程度に気になる所として、植毛の傷痕のことがあるかと思います。植毛には現在、大きくFUT法とFUE法の2つの方法がありますが、それぞれドナー株(移植毛)の採取方法が異なり、傷痕の特徴も異なります。インターネット上では、それぞれの傷について様々な情報や画像がありますが、大前提として、FUT法とFUE法のどちらも皮膚に刃を入れてドナー株を採取するので、必ず傷痕は残るということです。実際にやってみたらイメージと違ってしまったということを極力防ぐ為に、長年、FUT法とFUE法のどちらも取り扱ってきた当院の経験を基に、それぞれの傷痕について実情をご紹介させて頂きます。ひとつの参考として少しでもお役に立てましたら幸いです。なお、クリニックによって採取方法や移植方法など細かい部分含めて違いますので、極力複数のクリニックで実際の傷痕の症例を見ながら確認される事をお勧めします。
- 1. FUT法とFUE法の特徴
- 1.1. FUT法
- 1.1.1. メリット
- 1.1.2. デメリット
- 1.1.3. その他の留意点
- 1.2. FUE法
- 1.2.1. メリット
- 1.2.2. デメリット
- 1.2.3. その他の留意点
- 2. FUT法の傷(ドナー部の傷)
- 2.1. 移植毛採取の過程
- 2.1.1. 1)ドナー部位の切開
- 2.1.2. 2)縫合
- 2.1.3. 3)毛根の分離
- 2.2. 傷の形状と治癒過程
- 2.2.1. 形状
- 2.2.2. 治癒過程
- 2.3. 傷の特徴
- 2.3.1. 目立ちやすさ
- 2.3.2. 傷のフォロー
- 2.3.3. 傷の確認ポイント
- 3. FUE法の傷(ドナー部の傷)
- 3.1. 移植毛採取の過程
- 3.1.1. 1)毛根の採取
- 3.1.2. 2)穴の閉鎖
- 3.2. 傷の形状と治癒過程
- 3.2.1. 形状
- 3.2.2. 治癒過程
- 3.3. 傷の特徴
- 3.3.1. 目立ちやすさ
- 3.3.2. 傷痕のフォロー
- 3.3.3. 傷の確認ポイント
- 4. 移植先の傷
- 4.1. ラインスリット(Line Slits)
- 4.2. ホールスリット(Hole Slits)
- 5. まとめ
FUT法とFUE法の特徴
まずは、植毛の2つの大きな方法であるFUT法とFUE法について、それぞれの手術方法の簡単な特徴をみてみましょう。どちらもメリットとデメリット、注意点などがございますので、代表的なものをまとめさせて頂きました。詳細はクリニックによって違いもありますので相談の際などにご確認ください。なお、「FUT植毛とFUE植毛どちらが良いのか」で詳しくご紹介している通り、どちらが優れているという訳ではなく、どちらにもメリットとデメリット、向き不向きがありますので、当院では無理をしない植毛を行って頂く為にもケースによって使い分けるべきだと考えています。
FUT法
FUT(Follicular Unit Transplantation)は、主に大量のドナー(移植毛)を必要とする植毛に向いている方法です。ドナー採取エリア(後頭部や側頭部)からストリップ(帯状にした頭皮の組織)を切り取り、そこから毛包単位に移植する株を切り分けてから植毛する手法で、FUSS(Follicular Unit Strip Surgery:ストリップ法)と呼ばれることもあります。
メリット
- 生涯に採取出来るドナー株数が多い(約5,000~7,000株程度)※FUE法の約2倍
- 高い有効採取率(双眼実体顕微鏡を使って手作業で頭皮の断面を確認しながら毛包を切り分けます)
- コストがFUE法に比べて抑えられる(FUE法よりも安いことが多いです)
- 狭いバリカン幅(手術後に残るバリカン幅は、縫合部の上下5mmくらい、合計1cm程度のバリカン幅)
デメリット
- メスで頭皮を切る手術である(人によっては心理的なハードルが高いと感じる方がいらっしゃいます)
- 後頭部に横に走る細い線状の傷痕が1本残る(髪を伸ばす事で隠せます)
- 頭皮の硬い方は採取できるドナー株数が限られる
- 採取予定の株数から実際の株数が上下する(帯状にドナーを塊として採取して、取ってから株分けして数を数えるので、例えば1500株採取を予定した場合でも、「ちょうど1500株採れる」ということはまずありません。若干の誤差があります)
その他の留意点
- ドナー採取して縫合した痕は、基本的には1本の線状痕だが、植毛回数によっては2本になったり傷痕が広がる可能性がある
- ドナー採取後の縫合の際にトリコフィティック縫合法を用いる事によって、縫合痕を目立ち難くする事ができる
- 体質によっては傷痕が太く治ることがある
FUE法
FUE(Follicular Unit Excision)は、眉毛やヒゲ、傷痕など、比較的少量のドナー株で充分な植毛に向いている方法です。また、頭皮が硬くて可動性が少ない方や、それ以前に施術したFUT法の縫合痕を修正したい場合にもFUE法は適した方法です。
メリット
- 傷跡が目立ちにくい(ひとつの傷痕は約1mm前後のサイズの白い斑点状の傷。ただし採取し過ぎると髪の密度低下に繋がり大きなデメリットとなります)
- 頭皮が硬く可動性が少ない方でも採取可能
- 手術後の回復期間が比較的短い
デメリット
- 生涯に採取できるドナー株数はFUT法の約半分(約2,000~3,000株程度)※FUT法の約半分
- 有効採取率は医師の経験や技量に左右される
- コスト、手術時間(FUT法よりも高いことが多く、また株数の多い手術の場合は手術時間が長い傾向があります)
- 広いバリカン幅(採取する部分を広くバリカンで刈る必要がある。刈らない方法を採用する所もありますが、費用が高額になる傾向があります)
その他の留意点
- ドナーを採取しすぎると、採取部の密度が低くなり、スカスカになってしまう(傷痕も目立つ)
- 採取数が過多だと、通常のドナー採取範囲を超えて採取されてしまう(通常はAGAの影響を受けにくい部分からのみドナー採取するが、それで必要な株数がまかなえない場合は他の部分からドナー採取されることがある)
- 技術不足だと毛根切断率が上がり有効採取率が下がってしまったり、傷同士が繋がってしまう場合がある
FUT法の傷(ドナー部の傷)
FUT法の傷の特徴や注意点等を見ていきましょう。ここで挙げているのはあくまでも一般的な目安で、個々の体質や状況、ご希望、さらにはクリニックの経験・実績・ノウハウ・技術などによって大きく異なります。実際の傷痕の例は相談するクリニックの症例写真(採取部)などで確認するとイメージがつきやすいかと思いますので必ず確認しておきましょう。(出来れば複数のクリニックで確認する事をお勧めします)※FUTでの縫合の傷痕
移植毛採取の過程
1)ドナー部位の切開
FUT法では、ドナー部といわれる後頭部または側頭部の皮膚を帯状に切り取ります(AGAに強い性質を持つ髪の毛)。この帯状の皮膚の長さは個々の状態や希望株数など必要に応じて変わってきます。
2)縫合
帯状にドナーを切り出した後は、ドナー部位の皮膚を縫合し、傷を閉じます。外科的な手技を要求される工程で、医師の経験・技術力が傷痕の綺麗さに直結します。より傷痕を目立たなくするための「トリコフィティック縫合法」を用いているクリニックもあります(当院は全てのFUT手術で採用)。
3)毛根の分離
切り取った皮膚を双眼実体顕微鏡を使って毛根(ドナー株)単位で個別に分離します。このプロセスは目視で確認しながら手作業で行われる非常に繊細な作業で、基本的には医師の指示の元、複数の看護師が行います。毛根を傷つけない正確性と集中力、虚血時間をできるだけ短縮する為のスピードが要求されます。
傷の形状と治癒過程
形状
FUT法による傷は後頭部を水平に走る線状の傷で、縦幅は通常数ミリ(1~2mm)程度、長さは採取する皮膚の帯の長さによって異なります。最初は赤く腫れることがありますが、時間が経つにつれて色が落ち着いてきます。なお、頭皮が軟らい方やケロイド体質の方は、傷痕が目立ちやすくなる場合があります。
治癒過程
手術後、傷は最初の数日間は腫れや痛みを伴いますが、その後数週間で徐々に回復します。最初の数週間は、傷口にかさぶたが形成され、その後自然に剥がれます。完全な治癒には数ヶ月かかり、傷跡の色が周囲の皮膚と調和するまでさらに時間がかかることがあります。瘢痕が硬くなったり、浮き上がったりすることがありますが、これに対してはレーザー治療やステロイド注射などが使用されることがあります。また、傷は縫合処置されており、クリニックによっては抜糸が必要な場合があります。なお、当院では吸収糸(いわゆる「溶ける糸」)で縫合している為、基本的には抜糸の必要はありません。
傷の特徴
目立ちやすさ
後頭部の髪で隠れるため通常は目立ちにくく、2cm~3cm以上伸ばしておくと傷を隠す事ができます。髪を非常に短くした場合には傷跡が露出することがあります。坊主やスキンヘッドなどの極端に短くする髪型は、傷跡が完全に露出しますので注意が必要です。
傷のフォロー
傷痕が気になる場合は、SMP(Scalp Micropigmentation)やFUEによる傷修正などで目立たなくすることが可能です。
傷の確認ポイント
FUT植毛のデメリットで必ず上がるのが、この線状の傷痕です。FUE法と違って、人の手で縫合を行う方法となりますので、クリニックが持つ技術力やノウハウ等によって大きく差が出てくる手術法なのは間違いありません。必ず手術を検討しているクリニックの傷痕の症例写真を確認しておくようにしましょう。また、トリコフィティック縫合法を採用しているかも傷の仕上がりに関係してきますので、確認しておくと良いでしょう。
なお、個人差はありますが、基本的には3回程度までは、1本の傷痕で済むことがほとんどです。
FUE法の傷(ドナー部の傷)
次はFUE法の傷の特徴や注意点等を見ていきましょう。こちらも、ここで挙げているのはあくまでも目安で、個々の体質や状況、ご希望、さらにはクリニックの経験・実績・ノウハウ・技術などによって異なります。実際の傷痕の例は相談するクリニックの症例写真(採取部)などで、必ず確認するようにしましょう。(出来れば複数のクリニックで確認する事をお勧めします) なお、「FUE法は傷が残らないのですか?」と聞かれる事がありますが、採取した数分の傷痕は必ず残ります(例:1000株採取なら1000個)。※くり抜く植毛FUEの傷痕
移植毛採取の過程
1)毛根の採取
FUE法では、通常ドナー部位を短く刈り上げた上で、その範囲から毛根を1つずつ採取します(刈り上げない方法を採用しているところもあります)。専用のパンチ(直径1.0mm程度)を使用して、頭皮をくり抜くようにして小さな穴を開けて毛根を採取します。必要な株数に応じて、ドナー範囲の中で散らすようにして採取していきます(集中して採取すると、その部分だけ密度が低下する為)。さらに皮膚の下の毛包の方向や角度、深さを加味しながら採取していくため、とても繊細な作業になります。採取の際に使用するパンチのサイズが小さいほど傷が小さくて済みますが、その分、毛根の切断率も上がるため、医師の経験や集中力、技術力が求められます。また、採取数が多くなるほど、一つ一つの傷同士が繋がってしまったり、通常のドナー範囲外から採取がされるリスクが高まることがあります。
2)穴の閉鎖
毛根を採取した後の小さな穴は、FUT法のように縫合はせずに開放したまま自然治癒に任せます。そのため、小さな米粒大の点状の傷痕として残ります。穴は通常、数日以内に自然に閉じます。
傷の形状と治癒過程
形状
FUE法による傷は点状で、直径は約1.0ミリメートル程度です(小さな米粒をイメージすると分かり易いかもしれません)。これらの点状の傷は、採取した数と同等の数残ります(1000株なら1000個の点状の傷が残る)。一つ一つの傷痕は非常に小さいため、周囲の髪の毛が生えてくることでほぼ隠れて通常は目立ちません。なお、ケロイド体質の方は、傷痕が目立ちやすくなる場合があります。
治癒過程
小さな穴は通常、数日から1週間以内にかさぶたが形成され、自然に治癒します。完全な回復には数週間かかり、傷跡の色や形が周囲の皮膚と調和するまでにさらに時間がかかることがあります。
傷の特徴
目立ちやすさ
FUE法による点状の傷は、一つ一つが非常に小さく、周囲の髪の毛が伸びることで目立たなくなります(1cm~2cm以上あれば隠れる場合がほとんどです)。しかし、採取株数が多くなるほど、くり抜く数が増えて、ドナー部の密度は低くなっていきますので注意が必要です。さらに、FUTと同様に、坊主やスキンヘッドなどの極端に短くする髪型は、傷跡が完全に露出します。
傷痕のフォロー
傷痕が気になる場合は、SMP(Scalp Micro Pigmentation)で目立たなくすることが可能です。
傷の確認ポイント
一つ一つは、直径1mm程度と非常に小さい傷跡で目立ちませんが、採取数が多くなるほど密度は低下しますし、傷痕の総面積は増えていきます。そして、採取数が多いほど、隣のくり抜き痕と傷同士が繋がってしまう可能性も高くなります。
ちなみに、大量のFUE法を行った後にFUT法を行うと、FUT法で切り取る範囲もFUE法で間引かれている為、通常よりも採取するドナーの数は少なくなりますので注意が必要です。
移植先の傷
自毛植毛では、ドナー部位から採取した毛根を移植するために、移植先の部位に小さな切開(スリット)を行います。移植先の切開方法には主に以下の2つのタイプがあります。クリニックによって詳細や仕上がりは異なる場合がありますので、相談をするクリニックにてご確認ください。
ラインスリット(Line Slits)
ラインスリットは、細長いスリット(線状の切開)を頭皮に作る方法で、傷口は線状になります。通常は、メスや特殊なスリットメイカーを使用して行われます。この方法は、FUT(Follicular Unit Transplantation)法で比較的用いられることが多いようです(当院ではこちらの方法を採用しています)。ホールスリットに比べてより自然な傷痕や高密度が期待できますが、移植毛を切れ目に早く正確に入れ込む技術が必要になります。
ホールスリット(Hole Slits)
ホールスリットは、針やパンチを使用して頭皮に小さな穴(ホール)を開ける方法で、傷口は円状となります。この方法は、FUE(Follicular Unit Extraction)法で比較的使用される傾向があるようです。ホールスリットは、個々の毛包単位を移植するためのスペースを確保するのに適しており、大きな株の移植や時間短縮に向いています。但し、ホールという特性上、ラインよりも高い密度での移植が難しいという事や、傷痕が目立ちやすくなる可能性があります。
まとめ
植毛はFUT法とFUE法のいずれの方法を行うにしても、必ず傷痕は残ります。FUT法であれば細い線状の縫合痕が1本、FUE法であれば小さな米粒大のくり抜き痕が採取した分だけ残ります(1000株採取なら1000個)。さらにドナー採取部のこれ等の傷痕は、手術を行うクリニックによって大きく差が出る部分でもあります。FUT法及びFUE法で、希望移植数を採取した際の傷がどの程度になるのかをそのクリニックの症例写真などで事前に確認しておくことが望ましいと思います。
1998年より自毛植毛専門院として、国内でも数少ないFUT植毛とFUE植毛両方の実績を持つ紀尾井町クリニックでは、FUTの傷を目立ち難くするトリコフィティック縫合法を標準採用しており、傷修正にも対応、植毛の傷痕を出来る限り目立たなくするよう心掛けています。傷痕の症例も豊富にございますので、AGA・薄毛でお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方は、まずはお気軽にご相談下さい。
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 会員
医師 中島 陽太