ヘアサイクル・AGA(男性型脱毛症)
1.毛髪の生え替わり(ヘアサイクル)とは?
櫛で髪をとかしたときに毛が抜けたり、枕に抜け毛が多かったりすると心配になりますが、それが即薄毛につながるというものではありません。
人間の体毛の総数は500万本!
人間に生えている毛は、細くて短い毛(うぶ毛や軟毛)と、頭髪、胸毛、わき毛、まゆ毛、まつ毛のように太くて濃い毛(終末毛)の2つに大別されます。人間は体毛が少ないように思われていますが、哺乳類の仲間ですから、手のひらや足の裏を除き、全身にうぶ毛や軟毛が密集しています。終末毛と合わせると、人間の体毛の総数は500万本にも及ぶと言われています。気になる頭髪の平均本数は、白色人種で10~15万本、黄色人種で8~12万本、黒色人種で8~10万本程度です。
体毛数は、一人ひとり遺伝子レベルで決められていますから、赤ちゃんのときも、青年になってからも、その総数はほとんど変わりません。思春期の頃、急にひげやわきなどの毛が生えてきて「大人になった」と感じても、実際には、もともと生えていた細くて柔らかいうぶ毛の色が濃くなってきただけのことです。
なぜ薄毛・AGA(男性型脱毛症)になるの?
体毛数は生まれてからほぼ一生変わりませんが、なぜ、途中から薄毛・AGAになるのでしょうか。毛には「毛周期」という成長のサイクルがあります。そして頭皮の下に埋まった毛の部分には、再生の元になる幹細胞があり、さらには先の毛球部に細胞分裂を繰り返す毛母細胞と、毛母細胞に種々の成長因子のシグナルを送る毛乳頭があり、これら相互の働きによって毛が伸びていきます。
毎日約100本程度は抜け替わっている
しかし、どんなに丈夫な毛髪であっても一生伸び続けることはできません。毛の一生には成長期(約1000日間╱3〜7年、女性のほうが男性より長い)、退行期(2〜3週間)、休止期(3~4カ月)の3つの時期があり、一定期間の成長期を過ぎると退行期に入って成長が止まり抜け落ち、再び成長を始める、というサイクルを繰り返しています。
通常、毛髪の約90%は成長期と退行期の状態にあり、残りの10%は休止期にあります。日本人の平均的な毛髪総数が約10万本ですから、毎日約50~100本程度は抜け替わっていることになります。この程度なら、誰にでも見られる生理現象の範囲内です。
しかし、AGA(男性型脱毛症)が始まると、成長期の長さが短縮され、その割合も減少し、休止期の毛が多くなります。こうなると、細くて短い毛の状態で成長期が止まり、次の毛が生えるまでしばらく期間があくことになります。太い毛の数が減って、細くて短い毛が増えると、頭皮を隠す直径の太い毛が足りないので、髪のすき間から地肌が透けて薄毛の状態になります。
2.なぜ髪は薄くなるのか
毛髪は人体の臓器の一つです。他の臓器は完成すれば一生変わりませんが、毛髪は組織の退行と再生を規則的なサイクルで繰り返し、生涯に何度も生まれ変わります。それにもかかわらず、薄毛で悩む男性が大勢います。再生できるはずの髪が、なぜ少なくなるのでしょうか。多くの男性の薄毛の原因は男性型脱毛症(AGA)」と呼ばれるもので、主な原因は、男性ホルモン、酵素、遺伝、年齢の四つです。思春期から壮年期以降に遺伝的要素と男性ホルモンが原因となり、男性型脱毛が始まります。
酵素がポイント
男性は思春期以降、急激に男性ホルモンが増えますが、この男性ホルモンが薄毛・AGAに大きな影響を与えています。髪の毛根には5αリダクターゼという酵素が存在しており、血液中に流れてきた男性ホルモンの「テストステロン」は、この酵素の作用によって強力な「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変化します。
テストステロンには毛を太くする作用があり、これ自体が薄毛・AGAの原因になることはありません。ところが、DHTはテストステロンよりもホルモンの活性が10~30倍も強いため、毛を作り出す毛母細胞の働きを弱めてしまいます。その結果、薄毛・AGAを引き起こします。
髪は成長サイクルを繰り返しています
「毛髪の生え替わり(ヘアサイクル)とは?」で説明したように、髪は成長期→退行期→休止期という成長サイクルを繰り返しています。
正常なサイクルの髪は、抜けてもまた太い毛に成長します。男性の髪の成長期は4~6年ですが、AGAの場合は、数カ月にまで短くなることがあります。
つまり、十分に成長する前に退行期に突入するため、うぶ毛より先の状態に成長することができなくなります。その結果、毛が細く短くなり色も薄くなり、髪のすき間から地肌が透けて見えるようになります。女性の体内にも男性ホルモンが流れているので、男性と同じしくみで薄毛が進行します。
しかし、女性の頭皮の場合は、さまざまな酵素の活性や分布が男性とは異なるため、生え際の後ろから頭頂部にかけての範囲で、髪の間が虫食い状にまばらに脱毛し、生え際は脱毛しにくいのが特徴です。
白髪の人は薄毛にならない?
ちなみに、「白髪の人は薄毛・AGAにならない」という話をよく聞きますが、これは間違いです。白髪は髪に色をつける色素細胞(メラノサイト)の力がなくなることで起こる現象です。原因には遺伝、加齢、生活環境、病気、ストレスなどいろいろな要素が考えられます。白髪と薄毛・AGAの原因は別物で、この二つは何も関連してないので、白髪の方も薄毛・AGAになります。ただし、白髪のほうが薄くなっても地肌とのコントラストが弱く、黒髪より目立ちにくいというのは事実です。
かつらやヘアピースを使用している方は特に注意
ところで、AGA以外の原因による脱毛もあります。頭髪が円形に脱毛するケースが多い円形脱毛症の原因は、成長期毛根をTリンパ球が攻撃する「自己免疫説」が有力です。
また、抗がん剤などの薬剤や感染症(カビによる頭部白癬、ブドウ球菌やレンサ球菌による毛包炎など)、腫瘍などが原因で脱毛することもあります。
これらは元の原因が改善すれば薄毛も治る場合が多いので、専門医による正しい診断と、適切な治療を受けることが大切です。
特に、かつらやヘアピースを使用している方は、カビによる感染に注意してください。長時間着用していると蒸れて頭髪にカビが生え、そのカビは頭髪のタンパク質を栄養源にして増殖、頭皮や毛根へと感染が拡大します。それが一定期間以上続くと永久脱毛となり、その部分に二度と毛が生えなくなってしまいます。使用する時間を短時間に限定するか、感染が軽症の内に使用を中止したほうがよいでしょう。また、かつらやヘアピースの固定金具を常に同じ場所につけていると、牽引によってせっかく生えている髪が抜け、脱毛になることがあります。
3.男性型脱毛症(AGA)
薄毛の原因にはいろいろなものがありますが、多くの男性が悩むのが『男性型脱毛症(AGA)』です。 このAGAについては、研究が進んでそのメカニズムが解明されつつあります。
まずは原因をしっかり理解し、どんな処方が有効なのかを探る必要があります。
男性型脱毛症(AGA)がなぜ起こるのか、また薄毛とはどういった症状なのか、解説してみましょう。
薄毛が進んでも側頭部や後頭部の髪が残っているのは?
前述にもある5αリダクターゼはⅠ型とⅡ型の二種類あることが判明しています。Ⅰ型は頭髪、ひげ、陰毛、わき毛など毛が生えている部分にまんべんなく存在しており、Ⅱ型は前頭部から頭頂部とひげのみに集中しています。頭髪の毛根を弱めて薄毛・AGAの原因となるDHTを作るのはⅡ型であるというのが、最近の研究で明らかになっています。頭髪でⅡ型の酵素をもっているのは前頭部から頭頂部の毛根です。後頭部から側頭部の毛根はⅡ型の酵素をもっていないのでDHTを作りません。どんなに薄毛・AGAが進んでも、側頭部や後頭部の髪が残っているのはこのためです。
ヒトの誕生にヒミツあり!? 2種類の領域ができるワケ
では、なぜ髪には2種類の領域があるのでしょうか? せっかくなら、すべての領域でⅠ型だけ存在してくれればいいのに…と嘆くヒトもいるかもしれません。
実はその答えについては正確なことはわかっていません。
ある学者によると、ヒトが母親の胎内で細胞分裂を繰り返しながら成長する過程で、違った領域の細胞同士が、前頭部・頭頂部、側頭部・後頭部としてくっついてひとつの頭部を形成していくからだと説明する学説もあります。
遺伝的要素は薄毛の原因の25パーセント程度
男性はみんなテストステロンをもっていますが、若い内から薄毛になる方もいれば、中高年になってもフサフサと髪が生えている方もいます。この違いは、5αリダクターゼの働き方の強さと、男性ホルモンに対する感受性の強さが異なるからです。Ⅱ型の5αリダクターゼの働きが強いほど、DHTは大量に作り出され、さらにその作用を受けやすい性質の人ほど薄毛は進行しやすくなります。薄毛の原因に遺伝が含まれるのは、こういった性質が親から子へと遺伝するからです。たとえば、少量のお酒で酔う人と、多量のお酒を飲んでも酔わない人がいるようなものです。とは言え、実際に薄毛になるには他にもさまざまな要因が関係してくるため、遺伝的要素は薄毛の原因の25パーセント程度だと言われています。
髪の総数は薄毛が始まる前とほとんど変わっていない?
「男性型脱毛症(AGA)」という名称のイメージからも、薄毛が進むと髪が抜け、いずれはツルツルの禿げ頭になると考える方が多いでしょう。実は、これは半分間違っています。
見た目には禿げ上がっている部分を顕微鏡で見ると、毛穴から毛が生えているのが確認できます。それは、直径30マイクロメートル以下のうぶ毛です。目に見える普通の毛(終末毛)は直径が80~85マイクロメートルのため、うぶ毛は非常に細いものですが、毛には違いありません。薄毛が進んでかなり地肌が目立っている方も、実は、髪の総数は薄毛が始まる前とほとんど変わっていません。
(※) 薄毛の原因には、「遺伝」・「5αリダクターゼII型酵素の存在」・「思春期以降の男性ホルモンの増加」・「加齢による時間経過」の4つの要因が主にあげられます。
したがって「遺伝」は4つの因子の1つという意味で1/4の影響力で関与していると言えます。
歴史的には、紀元前400年頃のギリシアのヒポクラテス、アリストテレスなどが宦官に禿げはいないと指摘しています。
米国の解剖学者James B. Hamiltonは1942年の論文の中で、宦官と男性ホルモン注射の研究から、男性型脱毛症の原因は「テストステロン」と「家系的な遺伝」と「毛のうのテストステロン感受性」によるらしいと結論づけています。
しかし、遺伝性がない原因不明の男性型脱毛症も存在するので、ホルモン説以外の原因も今後解明されるものと思われます。