円形脱毛症とは? 原因や治療について紹介【医師監修】
円形脱毛症(えんけいだつもうしょう、alopecia areata)は、頭皮や身体の毛が円形や楕円形に抜け落ちる自己免疫疾患です。典型的なものは円形に抜けることが特徴的で、「10円ハゲ」と呼ばれる事もあります。進行すると円形ではなく様々な形に脱毛部分が拡がります。円形脱毛症は、誰にでも発症する可能性があり、年齢や性別を問わず発症します。急激に髪の毛が抜けることが多く、専門的な治療が必要なことがある疾患です。
円形脱毛症の特徴
円形脱毛症の特徴的な症状には以下のようなものがあります。
疫学
円形脱毛症の生涯発症率は約2%と比較的高く、性差は認めません。また併存疾患として甲状腺疾患や尋常性白斑、エリテマトーデスや関節リウマチなどの自己免疫疾患が合併することがあります。アトピー性皮膚炎などのアトピー素因を有していることも多く、アトピー素因との合併は円形脱毛症の若年発症や重症化と相関する傾向にあります。
症状
突然、円形もしくは楕円形の形状で髪の毛が抜け始めることが多いです。脱毛した部分の皮膚は通常は無痛であり、かゆみや炎症がほとんどありませんが、一部の患者では脱毛部分の頭皮が少し痒くなることがあります。抜ける面積や数は重症度によって異なります。脱毛斑の多くは通常コイン程度であり、はじめは小さな斑点として現れますが、数週間から数ヶ月の間に急速に広がることがあります。
脱毛の範囲
一箇所だけでなく、複数の場所で同時に円形の脱毛斑が出現することがあります。また、場所も頭部のみならず、眉毛、ひげ、体毛などにも広がる事があります。重症になるほど脱毛面積が拡がっていき、また頭髪以外(眉毛、睫毛)の脱毛が起きることもあります。
予後
円形脱毛症の半数以上は単発~多発型の軽症例で、軽症の場合は自然に軽快、治癒することが多いです。単発型では6ヶ月以内に自然治癒が期待できます。ただし一部慢性化し、脱毛面積が拡がって全頭型、汎発型と重症化する症例もあり、これらの病型は難治性なことが多いです。
円形脱毛症の原因
円形脱毛症の原因は多岐に渡り、ウィルス感染、身体的/精神的ストレス、出産などが引き金になることが多いですが、原因がはっきりしないことも多いです。
自己免疫反応とは
円形脱毛症は自己免疫疾患の一種であり、免疫細胞が誤って自分自身の毛包を攻撃することで発症します。通常、免疫系は外部からの侵入物(ウイルスや細菌など)を攻撃しますが、円形脱毛症ではT細胞と呼ばれる免疫細胞が毛包を異物とみなして誤って攻撃してしまい、炎症が起こります。この炎症によって毛包の機能が阻害され、髪の毛の成長が止まり、脱毛が起こります。これにより、特徴的な円形の脱毛斑が形成されます。
免疫システムが誤作動する要因
遺伝
家族に円形脱毛症や他の自己免疫疾患の発症歴がある場合、その家族内で同様の疾患の発症リスクが高まることが知られています。遺伝子は免疫系の細胞や分子の働きを制御しているため、特定の遺伝的変異が免疫細胞の機能を変化させることがあります。これにより、自己免疫反応が引き起こされやすくなり、免疫システムの誤作動が発生するリスクが高まります。さらに、この誤作動は単一の遺伝子ではなく、複数の遺伝子の相互作用によって発生リスクが高まることが多いとされています。また、遺伝的要因はその他の要因と相互作用します。遺伝的に自己免疫反応を起こしやすい素因を持つ人が、ホルモンバランスの変化、ストレスや感染症、外傷など要因にさらされると、さらに免疫システムの誤作動が発生しやすくなります。
ホルモンバランスの変化
ホルモンはストレス応答や免疫系の機能を調節する重要な化学物質であり、特にストレスや妊娠、出産、閉経などにより大きな変動を受けます。ストレスホルモンであるコルチゾールは免疫反応を一時的に抑制しますが、慢性的なストレスで持続的に高レベルのコルチゾールが分泌されると、免疫系のバランスが乱れ、自己免疫疾患の発症につながります。また、エストロゲンやプロゲステロンなどの性ホルモンは免疫システムを直接調節し、そのバランスの変化が自己免疫反応を引き起こします。甲状腺ホルモンやインスリン、プロラクチン、成長ホルモンも免疫系に影響を与え、これらのホルモンバランスの乱れが炎症反応や自己免疫反応を促進させて、免疫システムの誤作動を引き起こします。
ストレス
ストレスと円形脱毛症の関係というのは、広く一般にも知られていることかと思います。以前よりうつ症状や不安症状と円形脱毛症の関連を指摘する報告がありますが、一方で関連はない、という逆の報告もあります。ストレスを感じていないにも関わらず円形脱毛症が発症する例も多く、少なくとも「ストレスが円形脱毛症の単一の原因である」という科学的根拠は現在のところありません。
感染症
感染症は、ウイルスや細菌、真菌などの病原体が体内に侵入し、免疫システムがこれらの病原体と戦う過程で引き起こされます。この免疫応答は通常、体を守るために必要ですが、感染症による免疫応答が過剰になると、自己免疫反応が引き起こされ、毛包が攻撃されることがあります。新型コロナウィルスやインフルエンザウィルス感染を契機に円形脱毛症を発症することもあります。
円形脱毛症の治療
円形脱毛症の対策や治療法は、個々の状態に応じて異なります。以下治療について紹介します。詳しい治療法などは、専門の医師に相談して下さい。
専門医の診察
症状の進行が急激な場合(脱毛の面積が急激に拡がっている)や、再発を繰り返す場合などは、早めに皮膚科医の診察を受けるようにしましょう。
長期的な治療
円形脱毛症は再発しやすい疾患であり、治療には時間がかかることが多く、長期的な視野で治療を続けることが重要です。また、治療の効果が現れるまでに時間がかかることもありますので、焦らずに継続することが大切です。主な治療法としては、ステロイド薬(外用、内服、局所注入、パルス)、免疫抑制剤、紫外線療法、ミノキシジル外用などがあります。重症度によって適応となる治療法が異なりますが、保険診療で治療を受けることができます。
心理的なサポート
円形脱毛症による心理的な影響を軽減するために、心理カウンセリングやサポートグループに参加することで、精神的なサポートを受けられます。家族や友人のサポートも重要です。
患者への情報提供
疾患、治療法やQOL改善に関する患者への情報提供の一環として、日本皮膚科学会が一般市民向けに公開しているページがあります。下にそのリンクを貼っておきますので、参考にしていだければと思います。
脱毛症 Q10 - 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会) (dermatol.or.jp)
円形脱毛症に植毛は適応されるのか
円形脱毛症に対する自毛植毛の適応については、基本的には推奨されません。その理由は主に下記の通りです。円形脱毛症の治療は上述の通り保険診療ですので、皮膚科専門医の診断、治療を受けることが推奨されます。
自然治癒の可能性
円形脱毛症の患者の中には、自然に回復するケースが多くあります。自然治癒するなら当然植毛は不要です。
移植しても脱毛してしまう可能性
円形脱毛症は自己免疫疾患であり、免疫系が誤って毛包を攻撃することによって引き起こされます。自毛植毛は、後頭部にある、AGAなどが起こりにくい「強い毛根」を採取して必要な部分に移植しますが、これは「男性ホルモンに強い毛根」であって、「自己免疫に対して強い毛根」というわけではありません。ですのでせっかく移植しても、移植毛が自己免疫の攻撃を受ければその部分は脱毛を起こしてしまいます。
再発の可能性
円形脱毛症は再発を繰り返すことも多く、特定の場所に限らず頭皮全体に新たな脱毛斑が出現する可能性があります。植毛後に他の場所で脱毛が発生することが多いため、全体的な治療効果が期待しにくいです。
まとめ
円形脱毛症は、突然発症することが多く、患者にとって大きな心理的ストレスを伴う疾患です。原因は完全には解明されていませんが、自己免疫反応が主に関与しています。治療にはステロイド治療や免疫抑制剤、ミノキシジルなど様々な方法がありますが、個々の患者の症状や重症度に応じて適切な治療法を選択することが重要です。また、長期的な治療と副作用の管理、心理的なサポートも重要な要素です。円形脱毛症の治療に精通した皮膚科専門医の診察を受け、適切な治療計画を立てて治療をしていくようにしましょう。円形脱毛症に対しての自毛植毛は様々な理由により推奨されません。円形脱毛症の治療に専念されることをおすすめいたします。
なお、当院は自由診療のクリニックですので、保険診療は行っておりません。そのため、円形脱毛症の治療は行うことができません。今回の記事は、正しい情報にリーチできずに困っていらっしゃる方への情報提供という意味合いで書かせて頂きました。
1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院としての実績を持つ紀尾井町クリニックでは、フィナステリドやデュタステリド、ミノキシジルといったAGA治療薬は勿論、国内でも数少ないFUT植毛とFUE植毛の両方に対応できる、AGA治療専門のクリニックです。AGAでお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 正会員
医師 中島 陽太