アンドロゲンとは?【医師監修】

アンドロゲン(Androgen)は、「男性ホルモン」として知られるホルモン群の総称で、体内で多くの重要な役割を果たしています。アンドロゲンは主に男性の健康や成長に関与することで知られていますが、実は女性の体内にも存在し、さまざまな生理機能を支えています。本コラムでは、アンドロゲンの基本的な特徴、種類、作用、そしてAGAとの関係、健康や疾患との関わりなどについて紹介していきます。
- 1. アンドロゲンの種類とその基本的な役割
- 1.1. テストステロン
- 1.1.1. 男性の第二次性徴の発現
- 1.1.2. 生殖機能への寄与
- 1.1.3. 筋肉と骨の健康維持
- 1.1.4. 精神的・感情的な健康への影響
- 1.1.5. 代謝と体脂肪分布の調整
- 1.2. ジヒドロテストステロン(DHT)
- 1.2.1. 男性性器の発達
- 1.2.1.1. 外性器の形成
- 1.2.1.2. 精巣の降下
- 1.2.2. 第二次性徴の促進
- 1.2.2.1. 陰毛や体毛の増加
- 1.2.2.2. 声変わり
- 1.2.2.3. 筋肉と骨の発達
- 1.2.2.4. 男性らしい骨格の形成
- 1.2.3. 前立腺の成長と機能維持
- 1.2.3.1. 正常な発達
- 1.2.3.2. 加齢との関連
- 1.2.4. 性機能の維持
- 1.2.4.1. 性欲の増進
- 1.2.4.2. 勃起機能の調整
- 1.2.4.3. 精液生成
- 2. アンドロゲンの生成過程
- 2.1. アンドロゲンの基本構造
- 2.2. アンドロゲン生成の主要な経路
- 2.2.1. 精巣
- 2.2.2. 副腎
- 2.3. テストステロンの役割と代謝
- 2.3.1. ジヒドロテストステロン(DHT)への変換
- 2.3.2. エストロゲンへの変換
- 2.4. アンドロゲン生成の調整メカニズム
- 2.4.1. 視床下部-下垂体-性腺軸(HPG軸)
- 2.4.2. フィードバック機構
- 3. アンドロゲンとAGA
- 3.1. AGAの発症メカニズムとアンドロゲンの役割
- 3.1.1. アンドロゲンと毛髪の成長サイクル
- 3.1.2. DHTとアンドロゲン受容体の作用
- 3.2. 遺伝とアンドロゲンの感受性
- 3.2.1. AR遺伝子とAGA
- 3.2.2. 遺伝的多型とDHT感受性
- 3.3. AGAの進行と症状
- 3.4. AGA治療におけるアンドロゲンのターゲット
- 3.4.1. 5α還元酵素(5αリダクターゼ)阻害薬
- 3.4.2. 抗アンドロゲン薬
- 3.4.3. 外用薬
- 3.4.4. 生活習慣の改善
- 4. アンドロゲンとその他関連疾患
- 4.1. 前立腺肥大症と前立腺がん
- 4.1.1. 前立腺肥大症
- 4.1.2. 前立腺がん
- 4.2. 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
- 4.3. サルコペニア(筋肉量の減少)
- 4.4. 皮膚疾患
- 4.4.1. にきび(アクネ)
- 4.4.2. 脂漏性皮膚炎
- 5. まとめ
アンドロゲンの種類とその基本的な役割
アンドロゲンは、男性ホルモンとして知られる一群のステロイドホルモンで、性差の発現や生殖機能の調整に重要な役割を果たします。主に精巣で生成されますが、副腎でも少量が産生されます。アンドロゲンは男性だけでなく女性の体内にも存在し、多様な生理作用を担っています。その代表的な種類とそれぞれの役割について紹介します。
テストステロン
テストステロン(Testosterone)は、男性ホルモン(アンドロゲン)の中で最も多く、所謂男性ホルモンの代名詞のように言われていることでも知られます。これは重要なホルモンの一つで、男性特有の身体的・生理的な特徴を形成し、維持する役割を担います。このホルモンは主に精巣で生成され、副腎でも少量が作られます。女性の体内にも存在しますが、濃度は男性に比べて非常に低く、異なる役割を果たしています。以下では、テストステロンの役割について紹介します。
男性の第二次性徴の発現
思春期に入るとテストステロンの分泌量が急増し、以下のような変化を引き起こします。
- 体毛の発達・・・髭、腋毛、陰毛、胸毛などが濃くなります
- 声変わり・・・声帯が厚くなり、声が低くなります
- 骨格の変化・・・肩幅が広がり、顔つきが男性的に変化します
- 筋肉の発達・・・筋肉量が増加し、身体がより強靭になります
- 性器の成長・・・陰茎や精巣が発達し、成人としての生殖機能を確立します
これらの変化により、男性らしい身体の形態や特徴が形成されます。
生殖機能への寄与
テストステロンは精巣での精子生成を促進する役割を果たし、男性の生殖能力を維持します。また、性欲(リビドー)を高め、性機能の健康を支える重要なホルモンです。不足すると、性欲減退や勃起不全の原因となることがあります。
筋肉と骨の健康維持
テストステロンは筋肉細胞の成長を促進し、筋肉量を維持します。また、骨密度の維持にも寄与し、骨折のリスクを減らします。加齢に伴うテストステロンの低下は筋力の衰えや骨粗しょう症のリスク増加に繋がるため、定期的な運動や生活習慣の改善が推奨されます。
精神的・感情的な健康への影響
テストステロンは脳機能にも影響を与えます。適切なレベルを保つことで、やる気や集中力、精神的エネルギーが高まります。一方で、低下すると抑うつや疲労感、不安を引き起こすことがあります。さらに、記憶力や認知機能にも関係し、健康的なテストステロン値は老化に伴う認知症のリスクを軽減する可能性もあります。
代謝と体脂肪分布の調整
テストステロンは脂肪代謝にも関与しており、体脂肪の蓄積を抑制し、筋肉と脂肪のバランスを保つ働きがあります。このため、テストステロンの不足は体脂肪の増加やメタボリックシンドロームのリスク増大と関連しています。
ジヒドロテストステロン(DHT)
ジヒドロテストステロン(Dihydrotestosterone|DHT)は、5α還元酵素(5αリダクターゼ)という酵素の働きによりテストステロンから変換される、より強力なアンドロゲンの一種で、男性の身体機能や発達において重要な役割を果たします。しかし、過剰なDHTは薄毛(AGA|男性型脱毛症)や前立腺肥大などの問題と関連しています。DHTは男性特有の性徴の形成に必要不可欠である一方で、バランスの取れた生成が健康維持にとっては重要です。
男性性器の発達
胎児期において、DHTは男性性器の形成に重要な役割を果たします。胚が約6〜12週目を迎える時期に、Y染色体上のSRY遺伝子が精巣の形成を指導し、精巣がテストステロンを分泌します。このテストステロンが5α還元酵素の作用でDHTに変換され、DHTは以下のような変化を誘導します。
外性器の形成
DHTは男性外性器(陰茎、陰嚢)の形成を促進します。特に陰茎の発達と尿道の形成は、DHTの働きによるものです。
精巣の降下
DHTは、精巣を腹腔内から陰嚢内へと降下させるプロセスに関与します。このプロセスが正常に進まないと、停留精巣(精巣が陰嚢内まで下降せず、足の付け根の鼠径管内に留まってしまう病態)と呼ばれる状態が発生し、精巣腫瘍のリスクが上がったり、生殖機能に問題が生じるリスクがあります。
第二次性徴の促進
思春期に入ると、DHTは以下の変化を引き起こし、男性特有の身体的特徴を形成します。
陰毛や体毛の増加
思春期になると、DHTは毛包のアンドロゲン受容体に作用し、陰毛、腋毛、胸毛、顔の髭、体毛などが濃くなります。この作用により、体毛の分布が成人男性特有のパターンになります。
声変わり
声帯を囲む軟骨がDHTの影響を受けて肥厚し、声帯が長く太くなることで声が低くなります。この変化によってより男性らしい声質を形成していきます。
筋肉と骨の発達
DHTは筋肉の増加を促進し、骨格を男性的に変化させます。これには肩幅の拡大、顔の骨の発達、顎の形状の強調が含まれます。
男性らしい骨格の形成
思春期に骨端線の閉鎖を遅らせ、骨の成長を一時的に加速させる役割があります。これにより、身長の伸びが促進され、骨の密度が増します。
前立腺の成長と機能維持
DHTは前立腺の成長と正常な機能を支えます。
正常な発達
思春期にDHTが前立腺組織に作用し、前立腺が成長して精液の生成を助けるようになります。
加齢との関連
加齢に伴いDHTの影響が過剰になると、前立腺肥大症を引き起こすことがあります。この状態では尿路が圧迫され、排尿困難や頻尿などの症状が現れる可能性があります。
性機能の維持
DHTは男性の性欲や生殖能力にも大きな影響を及ぼします:
性欲の増進
DHTは脳内の性欲を司る部位に作用し、性欲を高めます。これは男性の性的健康と満足感に重要な役割を果たします。
勃起機能の調整
DHTは陰茎海綿体における血流調整を間接的に支え、正常な勃起機能の維持を助けます。
精液生成
前立腺や精嚢で生成される精液成分の分泌を刺激します。この作用は男性の生殖能力を維持するために欠かせません。
アンドロゲンの生成過程
アンドロゲンは、体内のステロイドホルモンの一種であり、主に性腺(精巣や卵巣)や副腎で生成されます。アンドロゲンの生成は、ホルモンシグナルの調整を受けた複雑なプロセス(フィードバック)を経て行われ、特定の酵素や前駆体ホルモンが関与します。本項目では、アンドロゲンがどのように生成されるのか、その過程を紹介します。
アンドロゲンの基本構造
アンドロゲンは、コレステロールを原料として生成されるステロイドホルモンです。アンドロゲン生成の大まかな流れは以下の通りです。
- コレステロールの変換:コレステロールがホルモンの前駆体に変化します。
- 副腎および性腺での合成:酵素の働きによって、アンドロゲンの生成が進行します。
- 活性型ホルモンへの変換:一部のアンドロゲンは、より強力な作用を持つホルモン(例:ジヒドロテストステロン)に変換されます。
アンドロゲン生成の主要な経路
アンドロゲン生成は、主に以下の2つの器官で行われます。
精巣
精巣は男性ホルモンであるテストステロンの主な生成器官です。
- Leydig細胞:精巣内のLeydig細胞がアンドロゲンの生成を担います。
- ゴナドトロピンの調整:視床下部と下垂体から分泌されるゴナドトロピン(LH: 黄体形成ホルモン)がLeydig細胞を刺激し、テストステロンの合成を促します。
生成の流れは以下の通りです。
- コレステロール → プレグネノロン
コレステロールがミトコンドリア内で酵素(P450scc)によってプレグネノロンに変換されます。これがアンドロゲンの最初の前駆体です。 - プレグネノロン → テストステロン
プレグネノロンはさらに酵素の働きによって、プロゲステロン、アンドロステンジオンを経てテストステロンに変換されます。
副腎
副腎は、性ホルモンの生成を補助する役割を果たします。副腎で生成されるアンドロゲンは、男性よりも女性において特に重要です。
- デヒドロエピアンドロステロン(DHEA):副腎皮質で生成されるアンドロゲン前駆体ホルモンです。DHEAは体内でテストステロンやエストロゲンに変換されます。
- アンドロステンジオン:DHEAから生成されるステロイドホルモンで、テストステロンの直接的な前駆体です。
副腎での生成の流れは以下の通りです。
- コレステロール → プレグネノロン
副腎皮質のミトコンドリア内で、コレステロールが酵素シトクロムP450scc (CYP11A1)によってプレグネノロンに変換されます。 - プレグネノロン → DHEA
プレグネノロンは酵素17α-ヒドロキシラーゼ (CYP17A1)の働きで17α-ヒドロキシプレグネノロンに変換されます。さらに同じCYP17A1のリアーゼ活性によって、DHEAが生成されます。 - DHEA → アンドロステンジオン
DHEAは酵素である3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ (3β-HSD)によって酸化され、アンドロステンジオンに変換されます。 - アンドロステンジオン → テストステロン
アンドロステンジオンは酵素である17β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ (17β-HSD)の働きによってテストステロンに変換されます。
テストステロンの役割と代謝
アンドロゲンの中で最も重要なホルモンであるテストステロンは、生成後、さまざまな代謝経路を通じて他のホルモンに変換され、特定の組織で働きます。
ジヒドロテストステロン(DHT)への変換
テストステロンは、5α還元酵素という酵素の働きにより、より強力なアンドロゲンであるジヒドロテストステロン(DHT)に変換されます。DHTは、特に前立腺、皮脂腺、毛包での作用が強く、AGA(男性型脱毛症)や前立腺疾患に関連しています。
エストロゲンへの変換
テストステロンは、アロマターゼという酵素によってエストラジオール(エストロゲンの一種)に変換されます。このプロセスは、男性と女性の両方で骨密度の維持や生殖機能の調整に重要です。
アンドロゲン生成の調整メカニズム
アンドロゲン生成は、体内のホルモンバランスに応じて細かく調整されています。
視床下部-下垂体-性腺軸(HPG軸)
- 視床下部から分泌されるGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)は、下垂体を刺激してゴナドトロピン(LHとFSH)を放出します。
- LHは性腺(精巣や卵巣)を刺激し、アンドロゲンの生成を促します。
フィードバック機構
- テストステロンの濃度が高くなると、視床下部と下垂体が抑制され、ゴナドトロピンの分泌が低下します。これにより、アンドロゲンの過剰生成が防がれます。
アンドロゲンとAGA
AGA(男性型脱毛症)は、男性の薄毛の最も一般的な原因であり、その発症にはアンドロゲン、特にジヒドロテストステロン(DHT)が深く関与しています。AGAは遺伝的な要因とホルモンの影響によって進行する脱毛症で、特に頭頂部や前頭部の毛髪が薄くなる特徴があります。本項目では、アンドロゲンとAGAの関係について詳しく解説します。
AGAの発症メカニズムとアンドロゲンの役割
AGAの発症は、ホルモンと毛包の相互作用によるものです。アンドロゲン、特にDHTが毛包に作用することで、AGAが進行します。
アンドロゲンと毛髪の成長サイクル
毛髪は通常毛周期といわれる、成長期(アナゲン期)、退行期(カタゲン期)、休止期(テロゲン期)の3つのサイクルを経て生え変わります。このサイクルのバランスが正常であれば、健康な髪が維持されます。アンドロゲンが適度に作用する場合、体毛や髪の成長を促進します。しかし、DHTが過剰に毛包(アンドロゲン受容体)に作用すると、毛周期を早めてしまい、髪が太く成長しきる前に抜けてまた産毛に生え変わるサイクル(毛髪のミニチュア化)へと変えてしまいます。つまり、毛周期の成長期が短くなって休止期が延長します。その結果、毛髪が徐々に細く短くなり、薄毛状態になっていきます。
DHTとアンドロゲン受容体の作用
AGAの主な原因とされるDHTは、テストステロンから5α還元酵素という酵素によって生成されます。DHTは通常のテストステロンよりも強力な作用を持つホルモンで、毛包内のアンドロゲン受容体(AR)と結合することで、脱毛を引き起こすシグナルが活性化されます。特に前頭部や頭頂部の毛包では、アンドロゲン受容体が多く存在し、AGAが進行しやすい部位となります。
遺伝とアンドロゲンの感受性
AGAの発症には、遺伝的要因も強く関与しています。アンドロゲン受容体の感受性は、遺伝子によって決定されます。
AR遺伝子とAGA
アンドロゲン受容体をコードするAR遺伝子はX染色体上に位置しており、母親から子供に受け継がれます。このため、母方の家系にAGAのある男性はAGAを発症するリスクが高いとされています。
遺伝的多型とDHT感受性
AR遺伝子の特定の変異(遺伝的多型)が、DHTとアンドロゲン受容体の結合を強めると考えられています。これにより、毛包がDHTの影響を受けやすくなり、AGAの発症や進行が早まる可能性があります。
AGAの進行と症状
AGAは代表的なパターンとして、O字型脱毛(頭頂部)、M字型脱毛(生え際)、U字型脱毛(前頭部)の3つがあります。図はAGAによる薄毛の進行を分類する際によく用いられる「ハミルトン・ノーウッド分類」です。

AGA治療におけるアンドロゲンのターゲット
AGAの治療は、アンドロゲン、特にDHTの生成や作用を抑えることを目的とします。以下に主な治療法を紹介します。
5α還元酵素(5αリダクターゼ)阻害薬
フィナステリドやデュタステリドが代表的です。DHTの生成を阻害することで、毛包への影響を抑えることが期待できます。5α還元酵素には2つのタイプがあり、フィナステリドはⅡ型のみ、デュタステリドはⅠ型とⅡ型の両方に作用します。飲み始めてすぐの期間は、毛周期がリセットされて脱毛が増えてしまう「初期脱毛」という現象が起こる可能性がありますが、これは内服を継続することで戻っていきます。なお、内服をやめてしまうと、効果がなくなってしまい増すので注意が必要です。いずれも医師の診断が必要なAGA治療薬になります。
抗アンドロゲン薬
スピロノラクトンやフルタミドといった薬は、DHTがアンドロゲン受容体と結合するのを直接阻害します。特に女性の脱毛症治療で使用されることが多いです。
外用薬
ミノキシジルは直接毛包に作用して血行を改善し、髪の成長を促進します。アンドロゲンには直接影響しませんが、AGA治療の補助的な役割を果たします。
生活習慣の改善
栄養バランスの取れた食事、ストレスの管理、適度な運動は、AGA治療を補助する要素として推奨されます。
アンドロゲンとその他関連疾患
アンドロゲンは、男性ホルモンとして知られるホルモン群で、体内のさまざまな組織や器官で重要な役割を果たしています。しかし、アンドロゲンの分泌異常や過剰な活性、受容体の異常などがあると、さまざまな疾患の原因や進行に関与することがあります。本項目では、アンドロゲンと関連する疾患について詳しく紹介します。
前立腺肥大症と前立腺がん
前立腺肥大症
前立腺肥大症は、加齢とともに男性に多くみられる疾患で、前立腺が肥大化することで尿路を圧迫し、排尿障害を引き起こします。この疾患にはアンドロゲン、特にジヒドロテストステロン(DHT)が関与しています。DHTは前立腺細胞の成長を促進するホルモンであり、年齢とともにDHTの作用が過剰になることで前立腺肥大が進行します。治療においては、DHTの生成を抑制する5α還元酵素(5αリダクターゼ)阻害薬(例:フィナステリド、デュタステリド)が一般的に使用されます。
前立腺がん
前立腺がんは、アンドロゲン依存性がんの代表例です。前立腺がん細胞はアンドロゲンを利用して増殖するため、アンドロゲンが病態の進行に重要な役割を果たします。アンドロゲンの影響でがん細胞の増殖が起こるため、治療としてはホルモン療法(アンドロゲン除去療法)が主に用いられます。抗アンドロゲン薬、LHRHアゴニスト注射、去勢手術などが行われることがあります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
多嚢胞性卵巣症候群(Polycystic Ovary Syndrome, PCOS)は、女性の体内でアンドロゲンが過剰に分泌されることに関連する疾患です。
PCOSの主な特徴には以下があります。
- 卵巣内に複数の小さな嚢胞が形成される
- 月経不順または無月経(不妊症の原因となり得る)
- にきびや多毛症(顔や体毛の増加)
- 男性型脱毛(頭頂部の薄毛)
女性におけるアンドロゲン過剰は、毛包や皮脂腺を刺激し、上記の症状を引き起こします。また、インスリン抵抗性が悪化することで2型糖尿病のリスクも増加します。PCOSの治療では、アンドロゲン作用を抑える薬剤や、インスリン感受性を改善する薬剤が使用されます。
サルコペニア(筋肉量の減少)
アンドロゲンは筋肉量と筋力の維持に重要な役割を果たしています。そのため、加齢に伴うアンドロゲンレベルの低下は、サルコペニア(筋肉量の減少)の原因となる可能性があります。
- 筋肉量の減少による筋力低下
- 身体機能の衰えにより転倒や骨折のリスクが増加
- 生活の質(QOL)の低下
筋力トレーニングや高タンパク質の食事、ホルモン補充療法(Testosterone Replacement Therapy, TRT)などが検討されます。ただし、ホルモン補充には副作用が伴う可能性があるため、慎重な管理が必要です。
皮膚疾患
アンドロゲンは皮脂腺を刺激する作用を持ち、皮膚の健康にも影響を与えます。
にきび(アクネ)
アンドロゲンが皮脂腺を過剰に刺激すると、皮脂の分泌が増加し、毛穴が詰まって炎症を起こします。これがにきびの原因となります。にきびが思春期に多いのは、アンドロゲンレベルが急激に上昇するためです。
脂漏性皮膚炎
皮脂の過剰分泌が原因で頭皮や顔に炎症を引き起こし、フケやかゆみが発生します。アンドロゲンはこの症状の悪化に寄与します。にきびや脂漏性皮膚炎の治療には、抗アンドロゲン薬や局所治療薬(レチノイド、抗菌薬)が使用されます。
まとめ
アンドロゲンは、男性の性徴や生殖機能の促進を超えて、全身の健康に寄与する重要なホルモンです。筋肉や骨の健康維持、心血管系の保護、脳の機能改善、皮膚や毛髪の調整、さらには免疫系のバランス調整まで、広範な役割を担っています。アンドロゲンの適切なレベルを維持することは、男性だけでなく女性の健康にも重要であり、ホルモンバランスの乱れが疑われる場合には、専門医の診断と適切な対策が必要です。AGAにおいては、DHTとアンドロゲン受容体の相互作用によって進行する脱毛症であり、遺伝的要因が深く関与しています。DHTの生成や作用を抑える治療がAGAの進行を遅らせる効果を持ち、現在では多様な治療法が利用可能です。アンドロゲンとAGAの関係を正しく理解し、適切な治療を行うことで、髪の健康を維持する可能性を高めることができます。
1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院としての実績を持つ紀尾井町クリニックでは、フィナステリドやデュタステリド、ミノキシジルといったAGA治療薬は勿論、国内でも数少ない植毛技術を持つ(FUT法とFUE法の両方に対応可能)AGA治療専門のクリニックです。経験豊富な医師が個別にお悩みをじっくりとお伺いさせて頂き、一緒にAGA・薄毛治療プランを考えております。AGA・薄毛でお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 会員
医師 中島 陽太