びまん性脱毛症とは?原因や予防、対策・治療法を紹介【医師監修】
びまん性脱毛症は、頭髪全体が均一に薄くなるタイプの脱毛症です。特に女性に多く見られ、AGA(男性型脱毛症)とは異なり、前頭部(M字型、U字型)や頭頂部(O字型)のように局所的に髪が抜けて薄くなるのではなく、広範囲にわたって薄くなります。この脱毛症は、髪の成長サイクルに影響を及ぼし、休止期の毛髪が増えることで起こります。本コラムでは、びまん性脱毛症の原因や予防法、対策・治療法などを紹介していきます。
- 1. びまん性脱毛症の原因
- 1.1. ホルモンバランスの乱れ
- 1.1.1. 出産後のホルモン変化
- 1.1.2. 更年期のホルモン変動
- 1.1.3. 甲状腺機能の異常
- 1.2. ストレス
- 1.3. 栄養不足
- 2. 遺伝
- 2.1. 加齢
- 2.2. 薬物の副作用
- 2.3. 生活習慣の乱れ
- 3. びまん性脱毛症の予防法
- 3.1. ストレス管理
- 3.2. 生活習慣の改善
- 3.2.1. バランスの良い食事
- 3.2.2. 十分な睡眠
- 3.2.3. 禁煙やアルコールの摂取量調整
- 3.3. 適切なヘアケア
- 4. びまん性脱毛症の対策・治療法
- 4.1. 医師の診断と治療
- 4.2. 医薬品
- 4.3. 植毛(自毛植毛)
- 4.4. かつら・ウィッグ
- 4.5. その他
- 5. まとめ
びまん性脱毛症の原因
びまん性脱毛症の原因は多岐にわたります。以下に主な原因を紹介します。
ホルモンバランスの乱れ
ホルモンバランスの乱れは、びまん性脱毛症の主要な原因の一つです。代表的なものは下記の通りです。
出産後のホルモン変化
妊娠中、エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンの分泌が増加し、これにより髪の成長期が延長されるため、髪がより健康に見え、抜け毛も減少します。しかし、出産後にはこれらのホルモンレベルが急激に低下します。この急激なホルモンの変動により、髪の成長サイクルが正常に戻り、休止期に移行する毛髪が一気に増加します。その結果、産後数ヶ月以内に多くの髪が抜け落ちる場合があります。これは「出産後脱毛症」または「産後脱毛」とも呼ばれ、通常は一時的な現象です。髪の成長サイクルは通常数ヶ月から1年で正常に戻りますが、個人差があり、完全に回復するまでの期間は異なります。産後のストレスや栄養不足もこの脱毛を悪化させることがあるため、十分な休息とバランスの取れた食事が重要です。
更年期のホルモン変動
更年期に入ると、女性の体内でエストロゲンとプロゲステロンの分泌が大幅に減少します。エストロゲンは髪の成長を促進し、ヘアサイクルの成長期を延長する役割を持っていますが、このホルモンが減少することで、髪の成長サイクルが短くなり、休止期や脱毛期の毛髪が増加します。これにより、全体的に髪が薄くなる「びまん性脱毛症」が発生することがあります。更年期にはまた、男性ホルモンであるアンドロゲンの相対的な増加も見られます。アンドロゲンは毛包に影響を与え、毛髪の成長を抑制する働きを持つため、これも脱毛の一因となります。
甲状腺機能の異常
甲状腺は新陳代謝を調節するホルモンを分泌し、体全体の細胞活動に影響を与えます。甲状腺機能が低下する甲状腺機能低下症では、代謝が遅くなり、皮膚や髪の毛の健康が損なわれる場合があります。具体的には、毛髪の成長が遅くなり、休止期の毛髪が増加するため、全体的に髪が薄くなる「びまん性脱毛症」が生じる可能性があります。一方、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)では、ホルモンの過剰分泌により代謝が異常に活発になります。この状態もまた、髪の成長サイクルに悪影響を与え、髪が抜けやすくなります。どちらの状態でも、ホルモンバランスの乱れが毛包の機能を損ない、健康な髪の成長を妨げます。甲状腺機能の異常は自己免疫疾患やヨウ素の過不足、遺伝的要因などによって引き起こされることがあり、これらの原因が複雑に絡み合って脱毛を促進します。甲状腺機能の異常が疑われる場合は、医師による診断と適切な治療が必要です。ホルモンバランスを整えることで、髪の健康も徐々に回復する可能性があります。
ストレス
身体的・精神的ストレスは、びまん性脱毛症の原因としてよく挙げられます。ストレスが増えると、体内のホルモンバランスが乱れ、血行不良を引き起こします。これにより、毛根への栄養や酸素の供給が不足し、髪の成長が阻害されます。更に生活習慣の乱れにもつながる可能性があります。
栄養不足
髪の毛を構成する要素として主に、タンパク質(ケラチン)、ミネラル(亜鉛、鉄分など)、ビタミン(ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE等)、水、脂質、色素があります。過度なダイエットなどによる慢性的な栄養不足は、髪の健康に直接影響を与えます。栄養不足や偏った栄養バランスは髪の成長が妨げられ、脱毛が進行してしまう場合があります。
遺伝
遺伝子は毛包の感受性やホルモンの影響を受けやすさに影響を与えます。特に、アンドロゲン受容体遺伝子の変異が関与していることが多く、この変異により毛包が男性ホルモン(アンドロゲン)に敏感になりやすくなります。アンドロゲンは毛包の縮小を引き起こし、毛髪の成長サイクルを短縮させ、結果として薄毛を引き起こします。遺伝的要因は性別を問わず影響を与えるため、家族にびまん性脱毛症の方がいる場合、そのリスクが高まることがあります。男性では特に若年層から脱毛が始まることが多く、女性でも加齢とともにその影響が顕著になることがあります。遺伝的要因は他の脱毛原因と複合的に作用することが多く、ホルモンバランスの変動や環境要因と相まって脱毛の進行が加速することがあります。
加齢
年齢を重ねるとともに、髪の成長サイクルが変化し、毛包の機能が徐々に低下します。これにより、成長期の毛髪が短くなり、休止期や脱毛期の毛髪が増加します。加齢に伴うホルモンバランスの変動も重要な要因です。特に女性では、更年期にエストロゲンの分泌が減少し、これにより髪の成長が妨げられることがあります。男性では、アンドロゲンの影響で毛包が縮小し、髪が細くなる現象が顕著です。さらに、加齢とともに血行が悪くなり、頭皮への栄養供給が不足することも脱毛を促進します。頭皮の皮脂腺の活動が低下し、乾燥が進むことで毛包の健康が損なわれ、髪の成長が阻害されます。また、細胞の再生能力が低下するため、ダメージを受けた毛包の修復が遅れることも一因です。
薬物の副作用
一部の薬物は副作用として、びまん性脱毛症を引き起こす可能性があります。抗がん剤、抗うつ薬、降圧薬、抗凝固薬などがその例です。これらの薬物は、毛根の細胞分裂を阻害し、髪の成長サイクルに影響を与える場合があります。
生活習慣の乱れ
生活習慣の乱れもびまん性脱毛症に影響を与えます。喫煙や過度のアルコール摂取、睡眠不足などは、髪の健康に悪影響を与える場合があります。極力健康的な生活習慣に改善してそれを維持していくよう心掛けましょう。
このように、びまん性脱毛症の原因は多岐に渡ります。また、男性型脱毛症(AGA)に比べて原因がはっきりと分かっていない部分も多いです。びまん性脱毛症もホルモンの影響を受けると言われていますが、その影響の大きさはAGAに対するジヒドロテストステロンほどに決定的なものではなく、AGAと比べるとホルモンの影響は相対的に低いと考えられています。
びまん性脱毛症の予防法
びまん性脱毛症を予防するためには、日常生活でのケアが重要です。以下に代表的な予防方法を紹介します。いずれも要因に直接的に効果があるというよりは、間接的に効果が期待できるものとなります。健康な髪を維持していくという意味でもとても重要な予防法です。
ストレス管理
ストレスを効果的に管理することは心身の健康の為に非常に重要です。適度な運動やヨガ、瞑想、音楽鑑賞など自身に合ったリラクゼーション法を取り入れることで、ストレスを軽減し、ホルモンバランスを整えることが期待できます。また、乱れた生活習慣(過食や拒食、不眠症、過度のアルコール接種や喫煙等)に繋がる原因の一つを軽減できるというメリットもあります。
生活習慣の改善
バランスの良い食事
バランスの取れた食事は、髪の健康を保つために不可欠です。特に、髪に良いとされる栄養素を積極的に摂取することが重要です。タンパク質(ケラチン)、ミネラル(亜鉛、鉄分など)、ビタミン(ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE等)などを含む食品をバランスよく摂るよう心がけましょう。
十分な睡眠
十分な睡眠は、体全体の健康にとって重要であり、髪の健康にも影響を与えます。規則正しい睡眠習慣を確立し、質の良い睡眠を確保することで、ストレスの低減も期待できます。特に成長ホルモンが多く分泌されるといわれる、22時~2時には就寝をしているよう心掛けておきましょう。
禁煙やアルコールの摂取量調整
喫煙や過度のアルコール摂取は、栄養吸収を阻害したり、ストレスを増加させるなど、髪の毛の健康にとって、様々なデメリットを引き起こす可能性があります。極力喫煙を抑えたり、適度なアルコール摂取は控えるように気を付けておきましょう。
適切なヘアケア
その他、髪の毛の健康を維持していくという意味では、ヘアケアも重要です。育毛剤は、自分の髪質や頭皮の状態に合ったものを選ぶことが大切です。また、過度な牽引を伴う髪型やヘアカラーリング、パーマ、熱処理などは避けるようにして、頭皮や髪の毛を酷使しないようにしましょう。これらの行為は髪と頭皮にダメージを与え、薄毛のリスクも高めますので注意しておきましょう。
びまん性脱毛症の対策・治療法
びまん性脱毛症を発生した場合、適切な対策と治療を行うことが重要です。以下に具体的な対策と治療法を紹介します。個人差があり、完全な回復は難しいかもしれませんが、適切に行う事によって改善が期待できます。
医師の診断と治療
びまん性脱毛症が疑われる場合、まずは皮膚科や専門の医師の診断を受けることが重要です。検査結果によっては、ホルモン療法や栄養療法、薬物療法が必要となることがあります。
医薬品
外用薬(ミノキシジル)、内服薬(フィナステリド、デュタステリド)などAGA・薄毛治療には様々な薬があり、処方には医師の診察が必要なものもあります。日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」では、先に挙げた外用薬(ミノキシジル)や内服薬(フィナステリド、デュタステリド)が推奨されており、びまん性脱毛症にも有効です。但し、女性へのフィナステリド、デュタステリドの適応がなかったり、ミノキシジルの含有量が男性は5%なのに対して、女性は1~2%と違いますので、注意が必要です。
植毛(自毛植毛)
自身のAGAの影響を受けにくい髪の毛を薄毛が気になる部分に移植する医療技術です。移植した髪の毛は他の毛髪同様に伸びてきて、パーマやカラーリング、整髪料や洗髪なども自身の髪の毛と同様に行なう事ができます。メンテナンスや買い替えなどのコストや手間もかからず、伸びてきたら散髪して整えるだけです。詳しくは紀尾井町クリニック公式サイトの「植毛とは?医師が詳しく解説」や「自毛植毛とは」でご確認頂けますので、興味のある方はご参照ください。
かつら・ウィッグ
かぶったり装着するだけですぐに希望通りの髪型・高い密度が得られ、広い範囲の薄毛でもカバーできます。ただし、定期的なメンテナンスや買い替えといったランニングコストや手間がかかること、長時間の着用により頭皮にダメージを与えてしまう可能性があること、ずれたり外れてしまう可能性があること、根本的な薄毛の解決策ではない事などには注意が必要です。
その他
低出力レーザー治療、成長因子導入および細胞移植療法など、上記以外にも様々な治療法があります。専門の医師に相談をして、それぞれの治療法のメリット・デメリットやリスク、副作用等を詳細に説明してもらった上で、ご自身の症状やご予算、ご希望等を踏まえた上で治療法の選択をしていきましょう。
まとめ
びまん性脱毛症は、頭髪全体が均一に薄くなる特に女性に多いタイプの脱毛症であり、様々な原因によって引き起こされます。適切な予防策を実践することで、びまん性脱毛症のリスクを抑える事が期待できます。日常生活において髪と頭皮の健康を保つための工夫を凝らし、問題が発生した場合は速やかに医師の診断を受けることが重要です。
AGA治療・植毛専門の当院では、医師が男性だけでなく女性の薄毛のお悩みにも寄り添って、将来を見据えた薄毛の治療プランを一緒に考えて参りました。治療法のメリット・デメリット、だけでなくリスクや副作用も丁寧に分かり易くご説明させて頂いたうえで、治療法をご自身でお選び頂く事ができます。薄毛でお悩みの方はお気軽にご相談下さい。
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 正会員
医師 中島 陽太