ジヒドロテストステロン(DHT)とは?【医師監修】

 ジヒドロテストステロン(DHT:Dihydrotestosterone)は、体内で生成される強力なアンドロゲン(男性ホルモン)の一種です。DHTは主に、テストステロン(主に精巣で生成される男性ホルモンの一種)が5α還元酵素(5αリダクターゼ)によって変換されます。このホルモンは男性の発育や健康に重要な役割を果たす一方で、脱毛症(特に男性型脱毛症であるAGA)や前立腺肥大などの問題と深く関連しています。本コラムでは、AGAの主な原因であるDHTの基本的な役割、生成過程などについて紹介していきます。

DHTの基本的な役割

 DHTは、男性の身体の発達と機能において重要な役割を果たしています。以下にその主な役割を示します。

男性性器の発達

 DHTは、胎児期の男性性器の発達において重要な役割を果たします。具体的には、DHTは外性器の形成と分化を促進します。胎児期にDHTの生成が不十分である場合、男性の外性器の発達が不完全になる可能性があります。

外性器の形成

 胎児期において、DHTは外性器の形成に不可欠です。具体的には、以下のような役割を果たします。

  • 陰茎の発達:DHTは陰茎の成長を促進します。陰茎は、胎児期に外性器としての形状を形成し始めますが、DHTが不足している場合、陰茎の発達が不完全になる可能性があります
  • 陰嚢の形成:DHTは陰嚢の形成にも関与します。陰嚢は、精巣を保護し、適切な温度環境を提供する役割を果たします。
  • 尿道の発達:DHTは尿道の発達を助け、正常な排尿機能を確立します。DHTの作用が不十分な場合、尿道下裂などの発達異常が生じることがあります

内性器の影響

 DHTは主に外性器の発達に関与しますが、間接的に内性器にも影響を与えます。例えば、精巣の降下を助ける役割があります。精巣が正常に陰嚢内に降下しない場合、停留精巣という状態になってしまい、精巣機能に問題が生じる可能性があります。

第二次性徴の発現

 思春期において、DHTは第二次性徴の発現を促進します。これには、陰毛や体毛の増加、声変わり、精巣の発達などが含まれます。DHTの作用はテストステロンよりも強力であり、これらの変化を効果的に引き起こします。

第二次性徴の発現

 思春期に入ると、DHTは第二次性徴の発現に重要な役割を果たします。これには以下の変化が含まれます。

  • 陰毛や体毛の増加:DHTは陰毛、腋毛、顔毛、体毛の成長を促進します。これらの毛は、思春期に入ると急速に発達し始めます。
  • 陰茎の成長:思春期におけるDHTの作用により、陰茎がさらに成長し、成人サイズに達します。
  • 精巣の発達:DHTは精巣の成長と機能に影響を与えます。精巣は精子を生成する器官であり、その正常な発達は生殖機能にとって不可欠です。

性機能の確立

 DHTは、男性の性機能の確立にも重要な役割を果たします。具体的には、性欲の増進や勃起機能の発達に関与します。これにより、思春期以降の男性は生殖能力を持つようになります。

前立腺の発達

 DHTは前立腺の成長と機能に重要な役割を果たします。前立腺は、精液の一部を生成するために必要な器官であり、DHTはその正常な発達と維持に寄与します。

DHTの生成過程

 DHTは、テストステロンから5α還元酵素によって変換されます。この酵素は、特定の組織でテストステロンをDHTに変換する役割を果たします。主に皮膚、前立腺、毛包などの組織で高い活性を持ちます。
 5α還元酵素には主に以下の2つのタイプがあります。

5α還元酵素 Ⅰ型

 この酵素は主に皮膚と肝臓で見られ、全身の多くの組織に広く分布しています。皮膚の皮脂腺で高い活性を持ち、DHTの生成を促進します。これがニキビや脂漏性皮膚炎などの皮膚状態に影響を与えることがあります。

5α還元酵素 Ⅱ型

 この酵素は主に前立腺や精巣、毛包などで見られます。5α還元酵素 Ⅱ型はAGAや前立腺肥大の発症に重要な役割を果たします。前立腺でのDHTの生成は、前立腺肥大の主要な原因とされています。

DHTとAGA(男性型脱毛症)

 DHTは、AGA(男性型脱毛症)の主要な原因とされています。AGAは、男性に最も一般的な脱毛症であり、主に遺伝的要因とホルモンバランスの変化が関与しています。DHTが毛包に与える影響について詳しく見ていきましょう。

DHTの毛包への作用

 DHTは毛包のアンドロゲン受容体に結合し、毛包の成長サイクルを短縮します。これにより、毛髪が細く、短く、色素が薄くなる「ミニチュア化」が進行します(太い毛から産毛になってきます)。このミニチュア化が進むと、頭皮が透けてくるようになり薄毛が進行してきます。最終的には、毛包が完全に閉じてしまい、新しい毛髪が生成されなくなります。

遺伝的要因とDHT

 AGAの発症には遺伝的な要因が大きく関与しています。DHTの影響を受けやすい毛包を持つ遺伝的な素質がある場合、AGAが進行しやすくなります。この遺伝的感受性は、主にX染色体上に位置するアンドロゲン受容体(AR:Androgen Receptor)遺伝子によって決定されると考えられています。

治療法

 AGAの治療法としては、DHTの生成を抑制する薬剤が一般的に用いられます。フィナステリドやデュタステリドは、5α還元酵素の活動を阻害し、DHTの生成を減少させることでAGAの進行を遅らせる効果が期待できます。また、ミノキシジルは、血行を改善し、毛包の成長を促進する外用薬として使用されます。なお、DHTの基本的な役割でご紹介したように、DHTは男性の身体の発達にとって重要な役割を担っている為、その生成を抑えるフィナステリドやデュタステリドは、未成年の方や女性の方への適応は基本的にはありません。フィナステリドやデュタステリドは経皮的にも吸収されるため、特に妊産婦の女性の方やお子様は直接触れないよう十分ご注意ください。

DHTと前立腺の健康

 DHTは前立腺の成長と機能に関与しており、過剰なDHT生成は前立腺の問題を引き起こす可能性があります。

前立腺肥大

 前立腺肥大(前立腺肥大症、BPH)は、中年以降の男性によく見られる症状です。BPHは、夜間頻尿、残尿感、尿路の圧迫とそれに伴う排尿困難を引き起こすことがあります。DHTは前立腺の肥大を促進するため、BPHの発症と進行に寄与する主要な因子とされています。

前立腺がん

 前立腺がんの発症には複数の要因が関与していますが、DHTもその一つと考えられています。DHTは前立腺細胞の増殖を促進し、がん細胞の成長を助長する可能性があります。しかし、DHTが直接的に前立腺がんを引き起こすかどうかについては、まだはっきりとは分かっていません。

治療法

 前立腺肥大の治療には、DHTの生成を抑制する薬剤が使用されます。フィナステリドやデュタステリドは、前立腺のサイズを縮小し、症状を軽減する効果があります。また、手術による治療法も選択肢の一つです。

まとめ

 ジヒドロテストステロン(DHT)は、男性の発達と健康において重要な役割を果たす一方で、脱毛症や前立腺の問題など、いくつかの健康問題とも関連しています。DHTの生成とその作用を理解することは、これらの問題を効果的に管理し、治療するためには重要です。AGAや前立腺肥大に対する治療法は、DHTの影響を抑制することを目的としています。健康な生活習慣を維持して、適切な医療支援を受けることで、DHTに関連する健康問題を効果的に予すること防が期待できます。
 1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院としての実績を持つ紀尾井町クリニックでは、フィナステリドやデュタステリド、ミノキシジルといったAGA治療薬は勿論、国内でも数少ないFUT植毛とFUE植毛の両方に対応できる、AGA治療専門のクリニックです。経験豊富な医師が個別にお悩みをじっくりとお伺いさせて頂き、一緒にAGA・薄毛治療プランを考えております。AGA・薄毛でお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。

AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 正会員
医師 中島 陽太