毛包とは?【医師監修】
毛包(もうほう)は、毛髪が成長する場所であり、皮膚の一部に存在する複雑な構造体です。毛包は、毛髪の生成、成長、脱毛の過程において中心的な役割を果たします。本コラムでは、主に頭髪について、毛包の構造、機能、毛髪の成長サイクル、毛包に関連する一般的な問題、毛包の健康を保つための方法などを紹介していきます。
- 1. 毛包の構造
- 1.1. 内毛根鞘(ないもうこんしょう)
- 1.2. 外毛根鞘(がいもうこんしょう)
- 1.3. 皮脂腺(ひしせん)
- 1.4. 立毛筋(りつもうきん)
- 2. 毛包の機能
- 2.1. 成長期(アナゲン期)
- 2.2. 退行期(カタゲン期)
- 2.3. 休止期(テロゲン期)
- 3. 毛包に関連する問題
- 3.1. 脱毛症
- 3.1.1. AGA(男性型脱毛症)
- 3.1.2. FPHL|FAGA(女性型脱毛症)
- 3.1.3. 円形脱毛症
- 3.1.4. びまん性脱毛症
- 3.2. 毛包炎
- 3.3. ニキビ
- 4. 毛包の健康を保つための対策
- 4.1. バランスの取れた食事
- 4.2. 適切なヘアケア
- 4.3. ストレス管理
- 4.4. 適度なマッサージ
- 4.5. 適切なヘアスタイリング
- 5. 毛包と植毛(自毛植毛)
- 6. まとめ
毛包の構造
毛包は、皮膚の中に存在し、文字通り「毛を包んでいる」部位となっており、毛髪の成長を支えるためにいくつかの異なる部分で構成されています。それぞれの部分が協力して、健康な毛髪の生成と維持に寄与しています。
内毛根鞘(ないもうこんしょう)
内毛根鞘(ないもうこんしょう)は毛包の内部に位置し、毛髪の根元を包み込む重要な構造です。毛包の深部にあり、毛髪が皮膚内で適切に成長するために必要不可欠な役割を果たします。内毛根鞘は、内層、中層、外層の3つの層から成り立っていますが、それぞれの層が毛髪の成長と保護に重要な役割を担っています。内毛根鞘の内層は、毛髪の根元を直接包み込み、毛髪の固定を助けます。この層は、毛母細胞が活発に分裂する場所であり、毛髪の発達を促進します。中層は内層の外側にあり、毛髪の強度と弾力を支える役割を果たし、毛髪の正常な成長に寄与します。外層は内毛根鞘の最外層で、毛包の他の部分と毛髪を接続し、毛包の全体的な構造を強化します。
外毛根鞘(がいもうこんしょう)
外毛根鞘(がいもうこんしょう)は毛包の外側に位置し、内毛根鞘の外側を取り囲む層です。毛包の保護と支持に重要な役割を果たしています。外毛根鞘は皮膚の表皮と同じ起源を持ち、毛包の構造を強化し、毛髪の成長に必要な環境を提供します。この層は、毛包を包み込み、毛髪の根元を外部から保護します。外毛根鞘は、毛包の最外部に位置するため、外部の物理的な刺激や感染から毛髪を守る役割も果たします。また、毛包の成長に関わる細胞を支え、毛包全体の安定性を保つために重要です。外毛根鞘は、皮膚の表皮と密接に連携し、毛髪の成長を促進するための環境を維持します。この層が正常に機能することで、毛包全体の健康が保たれ、毛髪の安定した成長が可能になります。外毛根鞘は毛包の外側を保護し、毛髪の正常な発育を支える重要な構造です。
皮脂腺(ひしせん)
皮脂腺(ひしせん)は毛包に付随する腺で、毛包の側面に位置している重要な構造です。この腺は皮脂という脂質を分泌し、毛髪と皮膚の表面に潤滑剤を供給します。皮脂腺の分泌物は、毛髪と皮膚の保護、乾燥防止、そして外的刺激からのバリアとして働きます。皮脂腺は毛包の内部に直接開口し、毛包の中を通って皮脂を分泌します。この皮脂は、毛包を包み込むようにして分泌され、毛髪の表面をコーティングし、毛髪が乾燥するのを防ぎます。また、皮脂腺の分泌は、毛髪の艶を保ち、皮膚の柔軟性を維持するために重要です。皮脂腺の機能は、ホルモンバランスや遺伝的要因、生活習慣などによって影響されることがあります。皮脂腺が過剰に活動すると、皮脂の分泌が増えて毛包が詰まり、ニキビなどの皮膚トラブルを引き起こす可能性があります。一方で、皮脂の分泌が不足すると、皮膚や毛髪が乾燥しやすくなります。皮脂腺の健康は、毛髪と皮膚の健康を維持するために欠かせない要素です。
立毛筋(りつもうきん)
立毛筋(りつもうきん)は毛包に付随する小さな筋肉で、毛包の外側に位置しています。この筋肉は、皮膚の下にある小さな筋繊維で構成されており、毛包に対して垂直に取り付けられています。立毛筋の主な機能は、寒さや感情的な刺激(例えば、恐怖や興奮)によって毛髪を立たせることです。立毛筋が収縮すると、毛包が引き上げられ、毛髪が立ち上がります。これは、体温の低下や強い感情が影響を与えたときに、体温を保つための防御的な反応の一部とされています。毛髪が立つことで、体温を保持するための空気の層が皮膚の表面に作られ、保温効果が高まります。また、立毛筋の収縮は、皮膚の表面で小さな「鳥肌」を作り、感情的な反応や寒さを視覚的に示す効果もあります。立毛筋の機能は、動物の毛皮が立ち上がることで敵に対する威圧感を与えるという防御的な意味合いも持っています。立毛筋は、毛包の機能や皮膚の反応に重要な役割を果たしています。
毛包の機能
毛包の主な機能は、毛髪の生成と成長を支えることです。毛母細胞が活発に分裂することで新しい毛髪が生成され、毛髪は成長期、退行期、休止期というサイクルを経て成長し続けます。詳細にご興味のある方は「毛周期(ヘアサイクル)とは」をご参照下さい。
成長期(アナゲン期)
成長期は、毛髪が積極的に成長する期間であり、通常は数年続きます。この期間中、毛母細胞は活発に分裂し、新しい毛髪が生成されます。成長期の長さは、個人差があり、遺伝的要因や健康状態によって異なります。
退行期(カタゲン期)
退行期は、成長期の後に続く短い期間で、通常は数週間続きます。この期間中、毛母細胞の分裂が停止し、毛球が縮小します。毛球の縮小により、毛髪の成長が停止し、毛包は次の段階に備えます。
休止期(テロゲン期)
休止期は、毛髪が成長を停止し、次の成長期に備える期間です。この期間中、古い毛髪が抜け落ち、新しい毛髪が成長を開始する準備をします。休止期は数ヶ月続くことが一般的です。
毛包に関連する問題
毛包に関連する問題は多岐にわたり、それぞれが毛髪の健康と成長に影響を与える可能性があります。代表的なものは以下の通りです。これらの問題は皮膚科や専門の医師に相談し、適切な治療を受けることで改善することが重要です。治療方法は、原因や症状に応じて異なりますので、異常を感じたら速やかに医師に相談をしましょう。
脱毛症
脱毛症は、毛髪の脱落を引き起こす状態です。例えば以下のようなものがあります。
AGA(男性型脱毛症)
主に遺伝的要因と男性ホルモン(主にジヒドロテストステロン:DHT)の影響で、前頭部や頭頂部の毛髪が徐々に細くなり、最終的には抜け落ちる進行性の脱毛症です。主に成人男性に見られ、中年以降に多く発症します。初期症状として、髪の毛が薄くなり、額の生え際や頭頂部が目立ちます。詳細は「AGA(男性型脱毛症)とは?原因と予防、対策・治療法を紹介」をご参照下さい。
FPHL|FAGA(女性型脱毛症)
女性に見られる進行性の脱毛症で、主に遺伝的要因やホルモンの影響が原因です。特に更年期以降に多く発症し、頭頂部の毛髪が徐々に細くなり、全体的に薄くなることが特徴です。前頭部の生え際は比較的保たれますが、髪の分け目が広がることが一般的です。詳細は「女性の薄毛(FPHL|FAGA)について。原因と予防、対策・治療法を紹介」をご参照下さい。
円形脱毛症
自己免疫疾患によって突然発症する脱毛症で、頭皮や体の他の部分に円形または楕円形の脱毛斑が現れることが特徴です。毛包が免疫系の攻撃を受けるために発生し、原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因やストレスが関与していると考えられています。脱毛斑は通常無痛で、痒みや炎症はほとんどありません。詳細は「円形脱毛症とは? 原因や治療について紹介」をご参照下さい。
びまん性脱毛症
毛髪が頭皮全体で均等に薄くなる脱毛症です。特定の部分に限らず、全体的に髪の密度が減少します。主な原因には、ホルモンバランスの乱れ、ストレス、栄養不足、薬物の副作用、甲状腺疾患などがあります。男女問わず発症しますが、特に女性に多く見られます。詳細は「びまん性脱毛症とは?原因や予防、対策・治療法を紹介」をご参照下さい。
毛包炎
毛包炎は、毛包(毛穴)に炎症が起こる状態で、細菌や真菌、ウイルスの感染が主な原因です。毛包炎は、毛包の入口である毛孔に感染が起こり、皮脂や角質が詰まることで発生します。これにより、毛包が赤く腫れ、痛みやかゆみ、膿が出ることがあります。症状は軽度のものから重度のものまで様々で、軽度の場合は数個の毛包が影響を受けるだけですが、重度の場合は広範囲に広がることがあります。毛包炎の原因としては、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が最も一般的です。この細菌は、皮膚の傷や摩擦によって毛包に入り込み、感染を引き起こします。その他にも、真菌(カビ)やウイルスが原因となることがあります。例えば、プールや公共の浴場などで接触感染することがあります。毛包炎のリスク要因には、不適切な衛生管理、過度の汗、皮膚の摩擦、免疫力の低下、肥満、糖尿病などが含まれます。また、公共の浴場やプールの水質が不適切な場合にも感染リスクが高まります。
ニキビ
頭皮のニキビは、毛包が皮脂や角質で詰まり、細菌感染が起こることで発生します。これは、顔や体の他の部分にできるニキビと同様のメカニズムで発生しますが、頭皮特有の問題も伴います。主な原因として、過剰な皮脂分泌、不適切なヘアケア製品の使用、ストレス、ホルモンバランスの乱れ、さらには食生活の影響などが挙げられます。頭皮のニキビは、髪の毛で覆われているため発見しにくいことがあります。症状としては、赤く腫れた小さな突起物、かゆみ、痛みを伴うことが多く、触れると不快感を感じることがあります。炎症が進行すると、膿を伴う膿疱に発展することもあります。頭皮のニキビは、不適切なヘアケアや衛生状態が原因で悪化することがあります。例えば、シャンプーの洗い残しやヘアケア製品の過度な使用、帽子やヘルメットの長時間使用などが原因となり得ます。また、ストレスやホルモンバランスの乱れも皮脂分泌を促進し、ニキビの発生リスクを高めます。頭皮のニキビは、放置すると慢性的な問題となり、毛包の損傷を引き起こすことがあります。これにより、毛髪の成長が妨げられ、薄毛や脱毛の原因となることもあります。
毛包の健康を保つための対策
毛包の健康を保つためには、日常生活の中でいくつかの重要な対策を実践することが有効です。
バランスの取れた食事
栄養バランスの取れた食事は、毛包の健康に不可欠です。特に、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE、亜鉛、鉄、たんぱく質などの栄養素を豊富に含む食事を心がけましょう。これらの栄養素は、毛髪の成長を支えます。
適切なヘアケア
頭皮と毛髪を清潔に保つことは、毛包の健康を維持するために重要です。適切なシャンプーやコンディショナーを使用し、過度な洗浄やスタイリングを避けることが推奨されます。特に、化学成分の多い製品や高温のスタイリングツールの使用は控えるべきです。
ストレス管理
ストレスは、脱毛や毛包の健康に悪影響を及ぼすことがあります。適度な運動、リラクゼーション、趣味の時間を持つことでストレスを軽減することが重要です。また、瞑想やヨガなどのリラクゼーション法も有効です。
適度なマッサージ
頭皮マッサージは、血行を促進し、毛包への栄養供給を改善するのに役立ちます。週に数回、指の腹を使って優しくマッサージすることで、毛包の健康をサポートできます。オイルを使用したマッサージも効果的です。
適切なヘアスタイリング
ヘアアイロンやドライヤーの過度の使用やヘアスタイリング剤の長時間の使用は、毛包に負担をかけることがあります。また、牽引を伴うタイトなヘアスタイル(ポニーテールやお団子、編み込みなど)は極力避け、毛髪に負担をかけないようにすることも重要です。
毛包と植毛(自毛植毛)
植毛(自毛植毛)は、AGAなどによる薄毛の治療法のひとつで、健康な毛包(AGAに強い耐性を持つ)をドナー部位(通常は後頭部や側頭部)から採取し、薄毛部分に移植する外科手術です。手術後、移植された毛包が新しい場所に定着して、正常に機能し始めると、自然な自身の毛髪の発毛・成長が見られるようになります。つまり、他の健康な髪の毛同様に、洗髪や散髪はもちろん、パーマやカラーリング、整髪料によるスタイリングまで楽しむ事ができるようになります。詳しくは「植毛とは?医師が詳しく解説【医師監修】」をご参照下さい。
まとめ
毛包は、毛髪にとって不可欠なものであり、その機能と健康を理解することは、毛髪の問題を予防し、治療するために重要です。バランスの取れた食事、適切なヘアケア、ストレス管理などの生活習慣の改善が、毛包の健康を維持するために役立ちます。毛包の健康を保つためには、日常生活の中でできる対策を実践し、健やかな毛髪を維持することが重要です。また、毛包に関連する問題が発生した場合は、早期に専門の医師に相談して適切な治療を受けることをおすすめします。
1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院としての実績を持つ紀尾井町クリニックは、AGA治療薬はもちろん、国内でも数少ないFUT植毛とFUE植毛の両方に対応できるクリニックです。経験豊富な医師が直接相談を承った上で、お悩みに寄り添って一緒に薄毛治療プランを考えております。AGA・薄毛でお悩みの方、抜け毛が増えてきたと感じる方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 正会員
医師 中島 陽太