生え際の産毛とAGAの関係【医師監修】

 髪の毛の生え際には産毛(うぶげ)が生えていますが、この産毛の中にはAGA(男性型脱毛症)と深い関係をもつものもあります。この記事では、生え際の産毛とAGAの関係について紹介していきます。

生え際の産毛とは?

 生え際の産毛とは、額のラインやこめかみ周辺に見られる細くて柔らかい毛を指します。これらの毛は一般的に短く、細くて色が薄いのが特徴です。生え際の産毛は、髪の成長サイクルにおいて成長期の初期段階にあることが多く、健康な頭皮と正常に機能している毛包を示します。これらの産毛には、次第に太くて強い毛へと成長し、最終的に長く太い髪に発達するものと、逆に長く太い髪に発達せず、細く短いままの状態で留まるものの二種類があります。このプロセスは、生え際以外の髪でも同様に見られ、髪の成長サイクルに基づいて進行します。
 因みに、子供の頃には沢山生えていた産毛が、大人になるにつれて目立たなくなってきた方もいるかと思いますが、これは、ホルモンバランスの変化や成長サイクルの変化、毛根の成長などによるものです。

生え際の産毛とAGAの関係

 生え際の産毛には、大別して下記の3つのパターンがあります。正常な産毛、AGAが関係している産毛、AGA以外の原因で産毛化している場合です。

正常な産毛

 生え際の産毛は、通常、髪の成長サイクルの中で自然に存在する短く細い毛で、特に額やこめかみの周辺に多く見られます。これらの産毛は、毛包が小さく、成長期(アナゲン期)が非常に短いため、長く太い髪に発達しにくく、髪の密度やボリュームにはほとんど影響を与えません。しかし、一部の産毛は長く太い髪に発達する可能性があり、毛包が正常に機能し、健康な状態であることを示しています。産毛は、成長過程での細胞分裂が成熟した毛髪よりも活発でないため、細く柔らかい質感を持ちます。これらの毛は、毛包内で短期間の成長を経て、すぐに休止期(テロゲン期)に入り、最終的に自然に脱落します。その後、同じ毛包から新たな産毛が生え、これが繰り返されます。産毛の存在は、頭皮の正常な機能を示すものであり、髪の健康を保つために重要な役割を果たしています。これらの産毛は、外的要因や年齢、ホルモンバランスの変化などによっても影響を受けることがあるものの、通常は生え際の見た目に大きな変化を与えることはありません。なお、産毛は頭皮の特定の部位(例えば生え際やこめかみ周辺)に限らず、全体的に存在しています。

AGAが関係している産毛

初期症状としての産毛

 AGAの初期症状として、生え際の産毛が目立つようになることがあります。通常の髪の毛が細くなり、成長が遅くなるため、産毛のまま残ることが多くなります。つまり、正常な髪の毛の「産毛化」が進んでいるという事です。これが、生え際が薄く見える原因の一つです。AGAを引き起こすジヒドロテストステロン(DHT)は、毛包にあるアンドロゲン受容体に作用して、髪の毛の成長サイクル(毛周期)を乱します。毛周期が短くなって、髪の毛が太く成長しきる前に抜けてしまい、そこに新たに産毛が生えてきて、またすぐ抜けてしまうという状態になっていきます。この影響により、生え際の産毛は成長期に十分な成長ができずに脱落することが多くなります。結果として、これまでは太く長く成長していた生え際の髪の毛が産毛化してしまい薄毛が進行していく場合があります。なお、この現象はM字型はげ、U字型はげとも言われる前頭部中心としたAGAによる脱毛症の兆候となります。

治療の影響

 AGAの治療法として、ミノキシジルやフィナステリド・デュタステリドなどが一般的に使用されます。これらの薬剤は、毛包への血行を促進したり、毛包を刺激したり、DHTの影響を抑えるなどの効果が期待できます。治療の結果、産毛化していた髪が再び太く成長してきたり、目に見える産毛が生えてきたりする可能性があります。そのため、生え際の産毛が増えることは、治療が効果を示しているサインの可能性でもあります。

AGA以外の産毛

 AGA以外の理由でも生え際は産毛化をしてしまう場合があります。ここでは代表的なものを挙げます。

栄養不足

 健康な髪の毛にはタンパク質やミネラル、ビタミンなどの栄養素が欠かせません。これらが不足すると、髪の毛の成長が妨げられることがあります。過度のダイエットなどによって、長期間これ等の栄養素が摂取出来ないでいると、抜け毛の増加や産毛化が進んでしまう可能性があります。

ストレス

 慢性的なストレスは、ホルモンバランスを乱したり、血管収縮による血行不良を引き起こす可能性があり、これらが毛髪の成長に影響を与えることがあります。また、ストレスは免疫系にも影響を及ぼし、自己免疫反応を引き起こすことがあります。その結果、円形脱毛症を引き起こす可能性もあります。

睡眠不足

 睡眠中に分泌される成長ホルモンは、体全体の成長と修復を促進する重要なホルモンです。特に22時~2時の間に多く分泌されます。この成長ホルモンは、毛髪の成長サイクルにも関与しており、髪の毛の健康と再生を助けています。十分な睡眠が取れないと、成長ホルモンの分泌が減少し、毛髪の成長サイクルが乱れて、健康な毛髪の再生が妨げられてしまい、その結果、毛髪が細く弱くなり、産毛化が進行する可能性があります。

生え際の産毛を健康に保つ方法

 生え際の産毛を健康に保つためには、以下の方法が有効です。遺伝による影響を抑える事は難しいですが、生活習慣や環境などに起因する産毛化のリスクは、以下の方法で予防する事が期待できます。

健康的な生活習慣

 生え際の産毛を健康に保つためには、健康的な生活習慣が重要です。まず、バランスの取れた食事が基本です。髪の健康にはタンパク質やビタミン(ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE等)、ミネラル(亜鉛、鉄分等)が欠かせません。これらの栄養素を豊富に含む食品を摂るよう心がけましょう。たとえば、緑黄色野菜、ナッツ、肉、魚、乳製品、大豆製品などが代表的です。次に、十分な水分摂取も大切です。体内の水分が不足すると、頭皮も乾燥しやすくなり、産毛の健康に悪影響を与えます。また、定期的な運動は全身の血行を促進し、頭皮への血流も改善します。これにより、毛根に必要な栄養が行き渡りやすくなります。さらに、十分な睡眠を確保することが重要です。睡眠中に体が修復されるため、良質な睡眠をとることで髪の健康も維持されます。このように、バランスの取れた食事や水分補給、適度な運動、十分な睡眠等は、髪の健康にとって重要です。

ヘアケア

 頭皮マッサージや適切なシャンプーの使用は、血行を促進し、毛包に栄養と酸素を供給するのに役立ちます。逆に過度な牽引を伴う髪型や、スタイリング剤の長時間使用や、過度のパーマ、ブリーチ剤、ヘアカラーの使用は、頭髪・頭皮の健康を損なってしまう可能性がありますので、注意しましょう。
 頭髪・頭皮の健康を保つことは、生え際の産毛の健康にも寄与します。洗髪時には優しく洗うことが大切で、爪を立てて洗うと頭皮が傷ついてしまったり、強く擦りすぎると毛根に負担がかかり、産毛が抜けやすくなってしまう場合があります。シャンプーは頭皮に優しいものを選び、頭皮の健康を維持します。洗髪後は、コンディショナーやトリートメントを使用して、髪と頭皮を保湿するなどもよいかもしれません。頭皮が乾燥すると産毛の健康にも影響が出るため、適度な保湿を心掛けておくと良いでしょう。次に、過度なスタイリングは避けましょう。ヘアアイロンやドライヤーの高温は髪を傷め、産毛にも悪影響を与えます。低温でのドライヤー使用や自然乾燥を心がけます。スタイリング剤の長時間使用や、過度のパーマ、ブリーチ剤、ヘアカラーの使用は、頭髪・頭皮の健康を損なってしまう可能性がありますので、注意しましょう。また、タイトなヘアスタイルも控えるべきです。きつく縛るポニーテールやお団子は毛根に負担をかけ、産毛が抜けやすくなります。ゆるめのヘアスタイルを選び、髪と頭皮に優しいアプローチを心がけましょう。さらに、定期的な頭皮マッサージを取り入れて、頭皮の血行を促進させれば、毛根に栄養が行き渡りやすくなる事が期待できます。

ストレス管理

 慢性的なストレスはホルモンバランスを乱し、AGAの進行を助長することがあります。適度な運動やリラクゼーション法、趣味など、自身に合った適切なストレス管理方法を見つけることが重要です。
 ストレスはホルモンバランスを崩し、髪の成長に悪影響を与えることがあります。まず、リラクゼーションの時間を持つことが大切です。趣味や興味のある活動に時間を割くことで、日常のストレスを軽減できます。例えば、読書、音楽鑑賞、アートやクラフトなどが効果的です。次に、運動もストレス管理に役立ちます。適度な運動はエンドルフィンの分泌を促し、気分をリフレッシュさせる効果があります。ヨガやウォーキング、ジョギングなど、好きな運動を取り入れると良いでしょう。さらに、深呼吸や瞑想もストレスを軽減する手法として有効です。毎日数分間の瞑想を行うことで、心を落ち着かせ、リラクゼーションを促進します。睡眠も重要な要素です。質の良い睡眠をとることで、体と心の回復を図り、ストレスを減少させます。就寝前のルーチンを整え、リラックスした状態で眠りにつくよう心がけましょう。最後に、社会的なサポートもストレス管理に寄与します。家族や友人と過ごす時間を大切にし、感情を共有することで、精神的な支えを得られます。これらの方法を組み合わせて、ストレスを上手に管理することで、髪の健康を保つことができます。

生え際の薄毛の治療法

 生え際が産毛化していって薄毛と感じた場合の対策・治療法として、代表的な例を挙げると以下のようになります。

医師の診断

 薄毛が気になるようになったら、まずは専門の医師の診断を受ける事をお勧めします。薄毛はAGA以外の原因でも起こる場合があるので、ご自身の状態を診断して、その原因に合わせた治療を医師と進めていくのが良いでしょう。

医薬品

 薄毛の治療薬の中には、処方に医師の診察が必要なものもあります。フィナステリドやデュタステリド等の内服薬、ミノキシジルといった外用薬などは、日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」で評価A(行うよう強く勧める)と推奨されています。なお、生え際の薄毛の場合は、頭頂部の薄毛よりもAGA治療薬が利きにくい傾向があります。特にフィナステリド、デュタステリドに関してはいずれも生え際にはあまり効果がなく、ミノキシジルに関しては若干の効果が出ることがあるものの、それでも「産毛が少し増えた」という程度の効果に留まることが多いです。

植毛(自毛植毛)

 植毛は薄毛が気になる部分に自身のAGAの影響を受けにくい髪の毛を移植する医療技術です。ここでいう「植毛」は、人工毛ではなく、自身の髪の毛(自毛)を用いた植毛を指します。自身の髪の毛を移植して、他の自毛同様に伸びてくるため、定期的なメンテナンスの必要もなく、散髪や洗髪はもちろん、パーマやカラーリングなども自身の髪の毛同様に行なう事が出来、水や風を気にすることなく運動やアクティビティなども楽しむことができます。
 日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」において、「フィナステリド及びデュタステリド内服やミノキシジル外用などの薬にの効果が十分でない症例に対して、他に手段がない状況において、十分な経験と技術を有する医師が施術する場合に限り、男性型脱毛症には自毛植毛術を行うよう勧め、女性型脱毛症には行ってもよいこととする。」と記載されており、自毛植毛は男性型脱毛症はB(行なうよう勧める)、女性型脱毛症にはC1(行なっても良い)となっています。
 上記の通り、「まずは薬を試してみて、ダメなら植毛を検討する」というのが一般的な流れです。一方で、薬は生え際には効きにくいことから、半年くらい使用してみても効果が実感できないのであれば早めに手術を検討されても良いかもしれません。また、薬というのは、元々太かった髪の毛が細くなってしまった場合に、太さを戻すというものです。ですので、元々あったところよりもヘアラインを下げたい場合や、ヘアラインのデザインを変えたいといった場合には薬は無効です。これらを希望の場合には薬を使用せずに植毛を検討されても良いと思います。

その他

 かつら、LED及び低出力レーザー治療、アデノシンの外用、ケトコナゾールの外用など、その他にも様々な治療法があります。それぞれの治療法のメリットやデメリット、リスクや副作用等を詳細に専門の医師に説明してもらった上で、ご自身の症状やご予算、ご希望等を踏まえた上で治療法の選択をしていきましょう。クリニックによって得意とする方法や医師との相性もあるかと思いますので、もし可能であれば複数のクリニックに相談に行かれるのも良いでしょう。

まとめ

 生え際の産毛とAGAの関係は、AGAの進行や治療に密接に関連している場合があります。通常に比べて産毛が目立つことはAGAの初期症状や治療の効果を示すサインである可能性があります。健康的な生活習慣や適切なスカルプケア、ストレス管理を心掛けることで、生え際の産毛を健康に保ち、AGAの進行を遅らせることが期待できます。もし、薄毛が気になる場合は、まずは専門の医師に相談をして、自身の状態を診断してもらい、診断結果に沿った治療を進める事をお勧めいたします。
 1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院としての実績を持つ紀尾井町クリニックは、国内で数少ないFUTとFUEの両方に対応できるクリニックです。経験豊富な医師が直接相談を承った上で、お悩みに寄り添って一緒に薄毛治療プランを考えております。AGA・薄毛でお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。

AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 正会員
医師 中島 陽太