テストステロンとは?【医師監修】

テストステロン(Testosterone)は、男性の主要な性ホルモンであり、筋肉の発達や性機能の維持に重要な役割を果たします。しかし、体内でテストステロンがジヒドロテストステロン(DHT)に変換されると、AGA(男性型脱毛症)の原因となることがあります。DHTは毛包を萎縮させ、髪の成長サイクルを短縮するため、薄毛や脱毛が進行します。したがって、テストステロンとDHTのバランス管理は、健康だけでなく、AGAの予防・治療にも重要です。本コラムでは、テストステロンの基本的な役割、生成過程、AGAとの関係などについて紹介していきます。
- 1. テストステロンの基本的な役割
- 1.1. 第二次性徴の発達
- 1.2. 筋肉と骨の成長
- 1.3. 性機能の維持
- 1.4. 精神的・感情的な健康
- 1.5. 代謝と体脂肪の管理
- 2. テストステロンの生成過程
- 2.1. ホルモンの合成と分泌
- 2.1.1. コレステロールからの合成
- 2.1.2. フィードバック制御
- 2.1.3. テストステロンの循環と作用
- 2.2. テストステロンの代謝
- 2.2.1. ジヒドロテストステロン(DHT)への変換
- 2.2.2. エストロゲンへの変換
- 3. テストステロンとAGA(男性型脱毛症)
- 3.1. テストステロンの毛包への作用
- 3.2. 遺伝的要因とテストステロン
- 3.3. 治療法
- 4. テストステロンとその他関連疾患
- 4.1. 男性更年期障害(LOH症候群)
- 4.2. 骨粗鬆症
- 4.3. 心血管疾患
- 4.4. 糖尿病とメタボリックシンドローム
- 4.5. うつ病
- 5. まとめ
テストステロンの基本的な役割
男性の健康や体の発達においてテストステロンは重要なホルモンです。以下に、具体的な役割を紹介します。
第二次性徴の発達
テストステロンは、男性の思春期における第二次性徴の発達に重要な役割を果たします。このホルモンの増加により、体毛やヒゲの成長が促進され、声が低くなるなどの身体的変化が起こります。また、精巣や陰茎の成長も見られ、性的成熟が進行します。筋肉や骨の発達も加速し、男性らしい体格が形成されていきます。これらの変化は、テストステロンの増加によって男性特有の特徴が確立されるプロセスです。
筋肉と骨の成長
テストステロンは、筋肉と骨の成長を促進する重要なホルモンです。まず、筋肉においては、タンパク質合成を活性化し、筋繊維の修復と強化を助けることで、筋力や筋肉量の増加を促します。運動後の筋肉回復をサポートするため、筋トレの効果を高める要因となります。また、骨においては骨形成を促進して骨密度を維持します。これが骨折リスクの低減や骨の健康維持に寄与して、男性の骨格形成に重要な役割を果たします。
性機能の維持
性欲(リビドー)の調整に関与しており、テストステロンのレベルが高いほど性欲が強くなる傾向があります。さらに、勃起機能の正常化にも寄与し、陰茎の血流を促進することで勃起を助けます。加えて、精子の生成を促進する役割もあり、生殖能力の維持に貢献します。テストステロンの低下は、性欲減退や勃起不全などの問題につながることがあります。
精神的・感情的な健康
このホルモンには、気分の安定やポジティブな感情の維持など、活力や自信を高める効果があります。テストステロンのレベルが適正であると、エネルギーや集中力が向上し、ストレスへの耐性が強まります。一方で、低テストステロンはいわゆる「男性更年期障害」(LOH症候群)を引き起こします。これが起こると疲労感やうつ症状、不安感の一因となりやすく、精神的な健康問題を引き起こす場合があります。
代謝と体脂肪の管理
筋肉量の維持や増加を通じて基礎代謝率を高め、カロリー消費を促進します。また、テストステロンは脂肪細胞の分解をサポートし、特に腹部の脂肪の蓄積を抑える効果があります。逆に、テストステロンの低下は代謝の減速や体脂肪の増加につながり、肥満やメタボリックシンドロームのリスクを高める原因となることがあります。
テストステロンの生成過程
少しマニアックな話にはなってしまいますが、テストステロンの生成や代謝について、もう少し詳しく見ていきましょう。
ホルモンの合成と分泌
テストステロンの合成と分泌は、脳と副腎、精巣の連携による複雑なプロセスです。まず、脳の視床下部がゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)を分泌し、これが下垂体に作用します。下垂体はGnRHの刺激を受けて、黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)を分泌します。特にLHは精巣のLeydig細胞に作用し、ここでテストステロンの合成が行われます。合成にはコレステロールが使用され、ステロイドホルモンの経路を通じてテストステロンが生成されます。また、一部のテストステロンは副腎でも産生されます。この生成されたテストステロンは血流に放出され、筋肉や骨、性器などに影響を与えます。
コレステロールからの合成
テストステロンはステロイドホルモンであり、コレステロールから作られます。まず、コレステロールはミトコンドリア内でプレグネノロンに変換され、その後、さまざまな酵素の働きによって複数の中間物質を経てテストステロンが生成されます。この過程は、主に精巣のLeydig細胞内で行われます。
フィードバック制御
体内のテストステロン濃度は、視床下部-下垂体-精巣軸(HPT軸)のフィードバック機構によって調整されています。血中のテストステロン濃度が高くなると、視床下部はGnRHの分泌を抑制し、下垂体からのLHとFSHの分泌も減少します。これにより、精巣でのテストステロン合成が抑えられ、上がりすぎたホルモン濃度が低下します。逆に、テストステロン濃度が低下すると、視床下部がGnRHの分泌を増やし、再びテストステロンの合成を促進します。このようなフィードバック機構により、体内のホルモンが一定の濃度に保たれるのです。
テストステロンの循環と作用
生成されたテストステロンは、血液中に放出されます。血中では、ほとんどが性ホルモン結合グロブリン(SHBG)やアルブミンと結合し、一部は遊離型(フリー)の状態で存在します。この遊離型テストステロンが、生理的に活性が高く、筋肉や骨、性器、毛髪、さらには脳に作用し、さまざまな機能をサポートします。
テストステロンの代謝
テストステロンの代謝は、主に2つの経路で行われます。
ジヒドロテストステロン(DHT)への変換
体内の一部のテストステロンは、5α還元酵素(5αリダクターゼ)の作用により、より強力なアンドロゲンであるジヒドロテストステロン(DHT)に変換されます。DHTは、前立腺や皮脂腺、毛包などに作用し、AGA(男性型脱毛症)の原因となることがあります。
エストロゲンへの変換
テストステロンの一部は、アロマターゼという酵素によってエストロゲン(主にエストラジオール)に変換されます。エストロゲンは、骨の健康維持や脂肪分布の調節に重要です。
これらの代謝経路により、テストステロンは多様な生理的機能を果たします。
テストステロンとAGA(男性型脱毛症)
テストステロンは、男性の主要なホルモンで、性欲、体毛の成長、筋肉の発達など、様々な身体機能を調節する役割を担っています。しかし、AGA(男性型脱毛症)の観点から見ると、テストステロンとAGAは密接な関係があります。
テストステロンの毛包への作用
テストステロン自体は、脱毛の直接的な原因ではありません。しかし、毛包内に存在する5α還元酵素(5αリダクターゼ)という酵素の働きにより、テストステロンはジヒドロテストステロン(DHT)に変換されます。このDHTが毛包に強く作用することで、AGAが進行します。もう少し詳しく紹介すると、 DHTは毛包のアンドロゲン受容体に結合し、毛髪の成長サイクルを短縮します。これにより、髪の成長期が短縮されて、太く育つ前に抜ける状態を繰り返すようになって、太い毛が細く短い産毛に変わっていきます。この「毛髪のミニチュア化」により、頭皮が透けて見えるようになっていって、薄毛が進行していきます。
遺伝的要因とテストステロン
AGAの発症には遺伝的な要因が強く関わっています。主に、アンドロゲン受容体(AR)遺伝子の感受性が影響を及ぼします。この遺伝子によって、DHTが毛包の受容体に結合する際の力が決まり、受容体の感受性が高いと、DHTの影響を強く受けるため、脱毛が進みやすくなります。AGAは、X染色体に関連する遺伝的素質であり、母方の家系から受け継がれることが多いとされています。そのため、家族にAGAの人が多い場合、DHTの影響を受けやすく、早い段階で薄毛が進行するリスクが高まります。ただ、あくまでも可能性が高いというだけで、必ずなるという訳ではありません。
治療法
AGAの治療には、主にDHTの生成を抑制する薬が使用されます。フィナステリドは、5α還元酵素のⅡ型を阻害し、テストステロンからDHTへの変換を減少させます。これにより、毛包の縮小やヘアサイクルの短縮が防がれ、薄毛の進行が抑制されます。特に頭頂部の薄毛に効果的です。デュタステリドはさらに、5α還元酵素のⅠ型とⅡ型の両方を抑制し、より広範囲でDHTの生成を抑えるため、フィナステリドより強力な効果が期待されます。その他には、血行を改善する外用薬のミノキシジルも使用され、その血管拡張作用によって毛包への栄養供給を促進し、髪の成長を助けます。これらの治療は、長期的な継続が必要であり、服用中止で症状が戻るリスクもあるため、根気よく続けることが重要です。副作用としては、性機能への影響などいくつかあるため、使用前に医師と相談することが推奨されます。特にフィナステリドとデュタステリドは医師の診断が必要なAGA治療薬です。
また、AGA治療薬による治療で効果が感じられない場合は、植毛手術(自毛植毛)という治療法の選択肢があります。自毛植毛は、自身のAGAの影響を受けにくい髪の毛を薄毛の部位に移植する医療技術で、移植した髪の毛は他の髪の毛同様伸びてきます。
その他にも、LEDおよび低出力レーザー照射、成長因子導入および細胞移植療法、かつらの着用など様々なものがあります。いずれもメリット・デメリットや副作用やリスク・注意点等がありますので、検討の際はそれぞれの専門医などに確認するようにしましょう。
テストステロンとその他関連疾患
テストステロンは、男性の身体にとって非常に重要な役割を担っています。しかし、テストステロンの分泌は年齢とともに低下していき、30歳前後あたりから徐々に減少し始めます。この低下は、加齢に伴う筋力の減少、エネルギーレベルの低下、骨密度の減少、性欲の低下などの影響を引き起こし、様々な健康障害の一因ともなります。
男性更年期障害(LOH症候群)
テストステロンの減少は、男性更年期障害(Late-Onset Hypogonadism, LOH症候群)として知られる状態を引き起こします。この症状は、疲労感、性欲低下、気分の変動、不安感、筋力の低下など、多岐にわたる身体的・精神的な問題を伴います。特に中高年の男性に多く見られ、診断には血中のテストステロン濃度の測定が必要です。治療法としては、ホルモン補充療法(HRT)が選択肢として考えられます。
骨粗鬆症
テストステロンは、骨密度の維持に重要な役割を果たします。低テストステロン状態が続くと、骨粗鬆症のリスクが増加します。骨密度が低下することで、骨が脆くなり、骨折しやすくなります。特に高齢の男性で問題となりやすく、骨折が健康に大きな影響を与えることがあります。ホルモン補充療法や生活習慣の改善が推奨されます。
心血管疾患
低テストステロンは、心血管疾患のリスク増加とも関連しています。研究によると、低テストステロンレベルは、高血圧や高コレステロール、肥満といったメタボリックシンドロームのリスク因子と関連し、これが動脈硬化や心筋梗塞のリスクを高める可能性があります。テストステロン補充によって、心血管機能が改善されるケースも報告されていますが、補充療法には慎重なモニタリングが必要です。
糖尿病とメタボリックシンドローム
テストステロンの低下は、2型糖尿病やメタボリックシンドロームのリスクを高めることが示されています。テストステロンは、インスリン感受性の向上に寄与するため、低下するとインスリン抵抗性が高まり、血糖値が上昇するリスクがあります。肥満もこれに影響を及ぼし、特に内臓脂肪の蓄積が加速されます。生活習慣の改善とともに、場合によってはテストステロン補充が考慮されます。
うつ病
テストステロンは、精神面にも大きな影響を及ぼします。テストステロンが低いと、うつ病や不安症状のリスクが高まることが報告されています。これは、テストステロンが脳の神経伝達物質に影響を与え、気分やエネルギーレベルの調整に関わっているためです。治療には、抗うつ薬のほか、場合によってはテストステロン補充療法が検討されます。
まとめ
テストステロンは、男性の健康にとって非常に重要なホルモンであり、筋肉や骨の形成、性機能、精神的な安定性に大きな影響を与えます。しかし、そのバランスが崩れると、低テストステロン症や過剰なテストステロンによる健康リスクが生じます。また、5α還元酵素と結び付く事で、AGAの要因となるDHTに変換される側面もあります。日頃から適切な生活習慣、運動、食事等に気を付け、必要に応じて医療的サポートを受ける事でテストステロンレベルを適正に維持するよう心掛けていきましょう。
1998年よりAGA治療・自毛植毛専門院としての実績を持つ紀尾井町クリニックでは、フィナステリドやデュタステリド、ミノキシジルといったAGA治療薬は勿論、国内でも数少ない植毛技術を持つ(FUT法とFUE法の両方に対応可能)AGA治療専門のクリニックです。経験豊富な医師が個別にお悩みをじっくりとお伺いさせて頂き、一緒にAGA・薄毛治療プランを考えております。AGA・薄毛でお悩みの方、植毛を検討されていらっしゃる方はお気軽にご相談下さい。
AGA治療・自毛植毛|紀尾井町クリニック
日本泌尿器科学会専門医・同指導医
国際毛髪外科学会 正会員
医師 中島 陽太