薄毛の治療法(内科的治療と外科的治療)
自然な仕上がりと高い密度が実現でき、植毛した毛が生涯生え続ける自毛植毛は、AGA・薄毛対策の効果的な方法だと自信をもってお勧めできます。しかし、世の中には他にもさまざまな薄毛対策があります、それらを解説してみましょう。自毛植毛にもできることの限界があるように、どの薄毛対策にもメリット・デメリットの両方がありますので、慎重にお選び下さい。
薄毛に悩む男性は非常に多いのですが、どんなに明るい性格の方でも薄毛で悩んでいることはなかなか人に相談できず、一人悶々と悩むケースが大半です。人の視線が気になるあまり、外出を控える方も少なくありません。そして誰もが、「何とか人に気づかれないように、薄毛を改善したい」と願っています。そんな悩みの中、選択を間違えると思わぬ落とし穴が待っている場合があります。「この商品を使えば髪がどんどん増える」「自分の毛とまったく変わらない仕上がり」「このサロンでマッサージを続ければ、脱毛体質を変えられる」などの甘い文句で誘い、驚くほど高額の商品やサービスを買わされても、実際には全く効果がない場合が多いので、注意が必要です。
薄毛を改善したいと考えているなら、まずは薄毛のことを正しく理解し、薄毛対策にはどのような方法があるのかを把握することが重要です。リーズナブルな費用で、医学的に最も効果の上がる方法があるのです。それをご紹介いたします。それぞれの方法をじっくりと吟味し、メリット・デメリットを含む実態を知った上で、自分に適した方法を選択してください。
薄毛の内科的治療
男性型脱毛症の治療薬(育毛剤)として米国皮膚科学会や国際毛髪外科学会が効果を認め、薄毛治療の診療ガイドラインで強く勧めている塗る育毛剤は「ミノキシジル」と「フィナステリド」だけです。他の育毛剤については「十分な根拠がない」という評価になっています。
育毛剤 ミノキシジル
薬品の取り扱いに厳しいアメリカ食品医薬品局(FDA)が、薬品分類で唯一「育毛剤」と認定しているのも、ミノキシジル及びミノキシジルを使った商品のみです。アメリカでは「ロゲイン」、日本では「リアップ」という商品名で発売されています。
ミノキシジルには血管拡張作用があり、長年、高血圧の治療薬として使われてきました。ところが、服用すると髪の毛や手の甲の毛が太くなるという副作用があることがわかり、その後、育毛効果が認められました。他の多くの血管拡張薬には育毛効果がないのにミノキシジルのみ髪が濃くなることから、ミノキシジルには毛をつくりだす毛母細胞を活性化し、薄毛を改善する作用があると考えられています。特に、女性のほうが男性よりも効果が得られやすい傾向があります。
アメリカの商品は男性用が5パーセント溶液、女性用が2パーセント溶液で、日本では男性用が5パーセント溶液、女性用が1パーセント溶液として販売されています。女性が5パーセント溶液を使うと体毛も濃くなる場合があるので、アメリカでは女性には2パーセント溶液が勧められています。濃度が、5倍濃いからといって5効果が高くなるわけではありません。濃くなるとかぶれやすくなります。泡(ムース)状の製品のロゲインフォームはプロピレングリコールを成分に含んでいないのでかぶれにくいです。ロゲインフォームは女性が使っても効果があります。女性の全体的な薄毛には特にロゲインフォームがお勧めです。
アメリカやヨーロッパでは、自毛植毛を行った後も植毛の効果をより高めて、脱毛の進行を予防することを目的として、ミノキシジルの塗布とプロペシアの内服を併用する方法が、一般的に推奨されています。
しかし、ミノキシジルで育毛効果が現れるまでに4~6カ月かかり、その効果は薄毛の進行を遅らせたり、抜け毛を減らして現状維持する程度で、長年使っても髪の毛が濃くなる方はあまりいません。さらに、頭の中央部分や頭頂部に効きやすく、生え際部分には効きにくいことがわかっています。 また、ミノキシジルに限らず、すべての育毛剤に言えることですが、育毛剤の効果は一時的なもので、一生使い続けないと効果が持続しません。使用をやめれば効果が消えて3〜6カ月後に、元の状態に戻ってしまいます。
ミノキシジルを使った育毛剤は比較的求めやすい価格です。アメリカのドラッグストアやインターネットなどではかなり安く買えますので、継続して使う場合には便利でよいでしょう。そのため、アメリカでも日本でも人気が高いです。しかし、いくら手頃な価格でも、一生分のコストを考えると、かなり高額になってしまうのは否めません。
育毛剤 フィナステリド
内服する薄毛治療薬です。米国皮膚科学会の男性型脱毛症診療ガイドラインや国際毛髪外科学会の指針では、ミノキシジルと共に強く推奨されており、アメリカ食品医薬品局(FDA)も、内服して薄毛を改善する薬として唯一有効性を認めています。商品名は「プロペシア」です。元々は前立腺肥大症の治療薬で、副作用として毛が濃くなることから、育毛剤として使用されるようになりました。男性ホルモンのテストステロンが男性型脱毛症の原因であるジヒドロテストステロン(DHT)へ転換するのを阻害する作用があり、その結果、薄毛の症状が改善されます。毎日1ミリグラム内服すると、半年から1年後には育毛効果が現れます。6~7割の方に効果があると言われています。
アメリカでの臨床試験では、軽度及び中程度の、頭頂部及び前頭部の男性型脱毛症の方の半数が、3~5カ月服用を続けたところで効果が認められたという結果が出ています。そして、2年間服用を続けたところ、83パーセントの方は薄毛の進行が止まり、その内の67パーセントは毛が濃くなったと報告されています。
効果:フィナステリドの薬効は、アジア人の場合、毛の直径を平均で約10パーセント太くする程度です。日本人の毛髪の太さは平均80~85マイクロメートル(1マイクロメートルは0.001ミリ)で、薄毛の方は30マイクロメートルより細くなっているため、たとえ10パーセント太くなったとしても元の太さに戻るわけではありません。
また、効果は年齢や薄毛の部位によって異なります。年配者より20~40代の若い方のほうが効果も現れやすく、薄毛が始まって間もない方のほうがよく効くとされています。特に、うぶ毛にまで進行してしまった薄毛の場合はあまり効果がないと言われています。部位では頭頂部には比較的よく効きます。生え際や額の両側の後退にも、ある程度効果があります。
副作用:男性ホルモンを抑制する薬のため、性欲減退、インポテンツ、胃部不快感、腹痛、肝機能障害などの副作用が報告されています。と言っても副作用が発生する頻度は低く、万一副作用が出た場合も、服用をやめれば元に戻ります。しかし、男性ホルモンに直接作用するという薬の性格上、女性や子どもへの使用は禁止されています。特に妊娠中の女性が服用し、胎児が男の子だった場合は性器が奇形になる恐れがあるため、妊婦や、妊娠の可能性がある女性は厳禁です。また、前立腺がんの血液マーカーであるPSA測定結果が、低めの値になるので注意が必要です。ミノキシジル同様、服用を止めると数カ月から半年で効果が消失します。薬の効果によって薄毛の進行を止めたい、現状をキープしたいと思うのなら、一生飲み続ける必要があります。しかし、医師の診断と処方箋がないと購入できないため、ドラッグストアなどで気軽に手に入れることはできません。その点ではミノキシジルよりも面倒かもしれません。
薄毛の外科的治療
「自毛植毛」という医療的解決法
自毛植毛とは、自分自身の後頭部から側頭部の頭髪を採取し、薄毛が気になる部分に再分配する移植技術です。後頭部から側頭部にかけての毛は、薄毛を誘発する男性ホルモンの影響を受けにくく、ほぼ一生太い髪のまま生え続ける可能性があります。そして、薄くなった生え際などにこの部分の毛髪組織を移植した場合、移植先での環境に左右されず、後頭部と同じ髪が生えてきます。将来薄毛が進行して、元々前頭部や頭頂部に生えていた髪がすべてうぶ毛になって見えなくなっても、後頭部に毛が生えている限り、植毛された毛も前頭部や頭頂部で生え続けます。後頭部の毛のこうした特徴は、「ドナードミナント」と呼ばれます。
心臓や肝臓の移植では他人の臓器を移植するので移植後に拒絶反応が起こり、それを抑制するために免疫抑制剤を生涯内服する必要があります。それに対して、自毛植毛の場合は自分の組織を自分の別の場所に移動する自家移植なので拒絶反応は起こらず、炎症も起こりにくいのが特徴です。希望の場所に太くて強い髪が生涯生え続ける可能性があるという意味で、医学的に理想的、大変魅力的で効果が期待できる治療法なのです。
外科的治療
自毛植毛
薄毛の範囲に髪を増やす技術です。後頭部の髪を薄毛の範囲に再配分します。頭髪の総数が増えるわけではありません。
内科的治療
育毛剤 ミノキシジル(リアップ・ロゲイン)、フィナステリド(プロペシア)
薄毛の進行を止めることは出来ません。遅らせることは可能です。 抜け毛を減らすことで、現状維持を図ることができます。
外科的治療と内科的治療の役割
広範囲の薄毛の場合、前頭部から頭頂部まで、元の髪の濃さに戻すだけのドナー量は採取できません。
ドナーの総量が不足する部分は、育毛剤で既存の髪を守ることが大切です。
日本では認知度の低い自毛植毛ですが、その歴史はかなり古く、1800年代から脱毛の治療に皮膚移植が提案され始めて、さまざまな手術方法が考案されてきました。実は日本でも1930年代には、自毛植毛に関する優れた研究が行われましたが、戦争などの影響で世界に知られることはありませんでした。しかし、1939年に奥田庄二博士が発表した研究の成果は、1959年にアメリカのノーマン・オレントライヒ博士が男性型脱毛症への手術治療法として発展させ、これが自毛植毛の幕開けとなりました。そして1993年、アメリカのダラスで世界初の国際毛髪外科学会が開催され、自毛植毛という医療技術が世界的に注目されるようになりました。
自毛植毛の最終目標は、自然な仕上がりと密度です。本人が薄毛と自覚せず、他人からも薄毛と思われない程度の密度を確保することです。そのために、世界中の専門医がさまざまな植毛方法を考案して繊細な技術が開発・工夫されてきました。そして、頭髪の最小単位である毛包ごとに移植する毛包単位移植(FUT法)が現在の主流になっています。現状では、手作業によるドナーの株分けと、手作業による植え込みのFUT法が最も優れた効果的な方法として確立しています。
広範囲の薄毛の場合、前頭部から頭頂部までの範囲で、約3万本~4万本の髪が失われています。
それに対して自毛植毛で生涯に採取できるドナーの総量は、約1万2千本~1万3千本しかありません。
自毛植毛だけで広範囲の薄毛をもとに戻すのは無理なのです。
そこで薄毛範囲に残された既存の髪を育毛剤で守ることは、とても大切です。
自毛植毛と育毛剤の両方を併用して組み合わせる事により、広範囲の薄毛を効果的に治療することが可能になります。
植毛クリニックの選び方 「自毛植毛はどこも同じではない」
自毛植毛先進国のアメリカでは、手作業の植毛に熟練したスタッフを養成することこそが、質の高い自毛植毛を提供する上で、最も大切だと考えられています。では、質の高い自毛植毛の特徴を紹介しましょう。
- 限られた数の植毛用毛髪(ドナー)を、すべて無駄なく採取する
- 植毛株に損傷を与えず、迅速かつ丁寧に植毛する
- できる限り高い密度で植毛する
- 自然な毛の流れを整える
- 既存の髪(元の髪)の間に移植しても既存の髪にダメージを与えない技術
- 一度で大量(2,000~2,500株以上)の植毛を行う
- 少ないドナー量でも、最大限の植毛効果が望めるような植毛配分をする
- ドナー採取後の傷を目立たなくするような縫合技術を身につける
- 患者への負担が少なく、安全な麻酔技術を身につける
- 合併症を抑える技術がある
- 将来の薄毛進行を見据えた植毛デザインを行う
- 自毛植毛を専門にしている
- 豊富な自毛植毛件数の実績がある
- モニター症例の結果を多く提示する
このような質の高い自毛植毛を提供するには、豊富な経験と高度の技術を身につけたスタッフ達による手作業の医療技術が必要となります。
特に、虚血時間(毛根に血が通っていない時間)が短いほどドナー株の鮮度を保ち、定着率が高まるため、自毛植毛はスピードの速さ=クオリティの高さとなります。欧米の一般的な自毛植毛の現場では、株分けに3~4時間、植え込みに4〜5時間費やすのが平均的ですが、優れた技術をもつクリニックでは株分けを約30分で行い、2,000株の植毛なら2時間程度で完了させることが可能で、その成果は定着率に表れます。
思い通りに髪を増やせる「自毛植毛」
自毛植毛は高度な技術が求められますが、植毛の方法はいたってシンプルです。局部麻酔で行うため痛みなどはなく、大抵の方はうたた寝をしている内に完了します。植毛後の痛みもありません。なかには多少突っ張り感を感じる方もいますが、痛みというほどの不快感ではありません。
また、優れた技術をもつクリニックでは短時間で完了するので、日帰りが可能です。自毛植毛体験者の六割が20代30代のため、休日を利用して植毛を受け、休み明けからすぐに職場に出る方が多いです。ただし、事務職程度なら問題ありませんが、ヘルメットをかぶるような仕事の場合は、ヘルメットによる摩擦で植毛した株が抜ける危険性があるため、4日間程度は休みが必要になります。
自毛植毛の場合は、植毛した直後からフサフサになるわけではありません。移植した毛は約1カ月後に一度抜け落ち、その後2~3カ月頃からうぶ毛となって生え始めます。目に見える太さに育つのが4~5カ月後からです。自然の髪は1カ月に約1センチずつ伸びますので、太い髪が5~10センチの長さに伸びるのは1年後です。ヘアスタイルを楽しめる長さに伸びて植毛の効果を実感するまでには1年ほどかかります。1年間待つのは待ち遠しいでしょうが、1年間かけてゆっくり濃くなるので周囲も気がつきにくいのです。安心して、1年間楽しみにお待ちください。
優れた技術をもつクリニックでは、自然に生えている髪と同じような毛包単位の植毛を行っており、見た目が自然に仕上がるようになりました。自毛植毛に残されている最大の課題は、採取できるドナーに限りがあるということです。この点に関しては、毛根の組織培養技術(クローン技術)が期待されており、現在盛んに研究が行われています。効果の不確実性や安全性の確認など、さまざまな課題を乗り越えなければならず、実用化まではまだかなりの時間がかかりそうです。
薄毛治療のガイドライン
1996年に米国皮膚科学会が発表した男性型脱毛症診療ガイドライン(※1)や、国際毛髪外科学会(※2)や、ドイツ皮膚科学会の指針(※3)では、薄毛治療の飲み薬(フィナステリド)や塗り薬(ミノキシジル)と併用する形で、自毛植毛を推奨しています。自毛植毛の効果が学会でも認められています。
※1:参考資料)米国皮膚科学会(JAAD) L. Drake博士他.
Guidelines of care for androgenetic alopecia.
Journal of the American Academy of Dermatology. 1996年、第35巻、465-469ページ.
※2:参考資料)国際毛髪外科学会(ISHRS)
国際毛髪外科学会ホームページ http://www.ishrs.org/jp/
※3:参考資料)ドイツ皮膚科学会(JDDG) A.Blumeyer博士他.
Evidence-based(S3)guideline for the treatment of androgenetic alopecia in women and in men.
Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft. 2011年、第9巻、追補S6、S1-S5ページ.
脱毛症治療の診療指針(ガイドライン) 5段階評価 日本皮膚科学会まとめ (2010年4月)
評 価 | 治 療 | |
A | 強く勧められる | ミノキシジル(リアップ) フィナステリド(プロペシア) |
B | 勧められる | 自毛植毛 |
C1 | 考慮しても良いが十分な根拠がない | 育毛剤成分(塩化カプロニウム、t-フラバノン、
アデノシン、サイトフリン、ペンタデカン、ケトコナゾール) |
C2 | 根拠がないので勧められない | 飲み薬の一種類(セファランチン) |
D | 行わないよう勧められる | 人工毛植毛 女性のフィナステリド(プロペシア)の服用 |
AとC1群をまず推奨し、1年経過後に効果が現れない場合 B(自毛植毛)を勧める